「大型案件を受注したものの、材料を仕入れる資金が手元にない」「取引先の都合で入金が翌々月へずれ込み、当面の支払いが追いつかない」――中小企業の経営で日常的に生じる、こうした突発的かつ短期的な“資金のズレ”。審査に数カ月を要する従来の銀行融資では対応が難しかったこの隙間を、テクノロジーの力で埋める「オルタナティブファイナンス」(代替金融・補完型金融)が存在感を高めている。
テクノロジーは企業の資金調達をどう変え、金融サービスはどこへ向かうのか。クラウドファクタリングサービスを提供するOLTA(東京都港区)の取締役副社長であり、Fintech協会常務理事も務める武田修一氏に、金融業界の現在地と今後の進化について聞いた。
従来、企業の資金調達は銀行融資などの「デットファイナンス」(負債による資金調達)や、株式を発行して資金を調達する「エクイティファイナンス」が主流だった。これらは、資金を提供する前に、企業の財務状況や事業の将来性などを精査する必要があるという点では共通している。
こうした従来型の資金調達ではカバーしきれないニーズもある。例えば「今月だけ、この取引の分だけ資金がほしい」といった、突発的で短期・少額の資金需要だ。
既存の金融を補完する手法として、この10年ほどで存在感を高めてきたのが「オルタナティブファイナンス」だ。武田氏は「既存の金融を置き換えるのではなく、補完するもの」と位置付ける。
その一つが、売掛債権を買い取って資金化するファクタリングだ。融資のように長期目線での事業性評価ではなく、直近の事業状況・売掛金のみを評価するため、短期・スポットの資金ニーズと相性が良いという。
オンライン型のファクタリングサービスは、2010年代から世界各国で広がってきた。この背景には、大きく2つの要因がある。
1つ目は、金融サービスをオンラインで提供するための環境が整ったことだ。従来、銀行では、紙を前提とした業務をWebサービスとして再設計するためのエンジニア人材を十分に確保することが難しかった。
「しかし、2010年代になると、メガベンチャーなどで経験を積んだIT人材がさまざまな業界に転職する流れが出てきて、そうした人材が金融領域にも移ることで『金融サービスをWebサービスとして設計する』というアプローチが可能になりました。そして2つ目の要因は、キャッシュフローの予測モデルや機械学習など、データ解析技術の実用化です」(武田氏)
とはいえ、当時の伝統的な金融機関には、リスクを取って新規事業としてフィンテックに挑む組織的土壌が十分には整っていなかった。そこでOLTAのようなスタートアップがサービスを形にし、実績を積んでいったのだ。
また、クラウド会計ソフトなどSaaSの普及により、中小企業のITリテラシーが向上したことも、オンライン型の金融サービスが受け入れられる素地を作ったと考えられる。
ファクタリングは、従来の銀行融資では対応しにくい、中小企業の「突発的・短期的・少額」な資金ニーズに対して真価を発揮する。
銀行融資では、財務状況や事業の将来性、返済能力に加え、融資によっては不動産などの担保も求められる。一方で、日々の経営では「特急の大型案件を受注したが、材料の仕入れ資金がない」「取引先の都合で入金が翌々月末になる」といった、売り上げが立ってから実際に入金されるまでの間に、資金繰りのズレが生じることがある。
こうした短期・少額のニーズに銀行が融資で対応しようとすると、審査の手間がかかる一方で、収益が見合わない。そのため、銀行側が「対応が難しい」と断るケースも少なくなかった。
OLTAのクラウドファクタリング事業は、地方銀行や信用金庫など多くの地域金融機関と提携している。その背景には、こうした事情がある。
例えば「〇〇(銀行名)クラウドファクタリング Powered by OLTA」のように、銀行のブランドでサービスを提供することで、銀行の営業担当者は顧客の短期的な資金ニーズに対して「オンラインですぐに使えるファクタリングがありますよ」と提案できるようになった。顧客との関係を強化したい銀行側と、地方の中小企業にサービスを届け、審査の精度を上げるためのデータを得たいOLTA側の希望がかみ合ったモデルとなっている。
昨今、さまざまな業界で生成AIをサービスに活用する動きがあるが、金融業界における本格導入にはまだハードルがある。「金融事業では高いセキュリティ水準が求められるのに加え、業務の平準化や高度化のために判断基準を説明可能な形で残す必要があります。ハーネス設計(生成AIの挙動制御)など信頼性に関するノウハウが十分に確立されていない現状、一足飛びに生成AIに審査を任せることはできません」(武田氏)
一方、OLTAでは創業期から、機械学習モデルをクラウドファクタリングの審査に活用してきた。顧客から提出される入出金履歴や口座情報といったデータを解析し、キャッシュフローの状況を分析している。ベテラン銀行員が企業の入出金履歴などから経験に基づいて行ってきたような判断を、1日何千件という規模で再現性高く処理するためには、機械学習の力が必要だった。
ただし、武田氏は「AIだけに任せているわけではない」と強調する。機械学習を用いた定量的なスコアリングを活用しつつも、企業の経営事情や取引先との関係性といった「定性的な判断」は人間が行う。人間とAIのハイブリッドこそが、同社の審査ポリシーだ。
「融資」現場にAIの足音、資金調達どう変わる? カネを借りられる企業の条件、専修大教授に聞く
資金調達の「二極化」進む 勝ち抜く企業の条件は? 早大教授に聞く
300億円は「ROI不問」 Olive、Trunkを仕掛けるSMBC、新規事業の神髄は「撤退」にアリCopyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング