いずれにせよ「辞める人が多い→人手不足→倒産」といった流れだけが問題ではありません。
会社の経営に最も影響を与えるのは「辞めなかった社員たち」です。その影響は経営者の想像をはるかに超えます。
待遇が改善されないことへの不満、辞めた人の穴埋めによる業務量の増加、それに伴って増える労働時間と心理的プレッシャー。その結果生まれるのが「静かな退職」や「リベンジ・ステイ」という名の、内側からの静かな崩壊です。リストラに一度手をつけた企業が、何度もリストラを繰り返すのはこのメカニズムによるものです。
組織論において、これは「レイオフ・サバイバー(残留者)の問題」と呼ばれます。会社を去る人たちの陰で、辞めずに踏みとどまった、あるいは辞められなかった社員たちが心身をすり減らし、組織へのエンゲージメントを失っていく。これこそが、数字には表れにくい最も深刻な「経営リスク」なのです。
「健康職場」(Healthy Work Organization)という考え方があります。これは米労働安全衛生研究所(NIOSH)が提唱したモデルで「労働者の健康や満足感と、職場の生産性や業績には相互作用があり、互いに強化できる」という概念に基づいています。
働く人が心身ともに健康で、満足して働ける組織づくりを目指せば、個人の能力や創造性が最大限に発揮できる。それが生産性の向上につながり、結果として組織の業績にも好影響をもたらします。
逆に、残された社員に過剰な負担を強いつつ、適切な報酬を与えない職場は、この好循環の真逆をたどります。見えないところで疲弊し、数字に表れにくい「知の枯渇」や「品質の低下」が引き起こされ、会社の屋台骨が崩壊するのです。
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