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「箱はあるが中身がない」地方アリーナ問題 年商100億円迫る「RIZIN」に自治体が頼るワケ(2/3 ページ)

» 2026年09月03日 07時00分 公開

地方が求める「集客IP」へ 地域連携が生む経済効果

 都市部の興行をそのまま持ち込んで「開催させてください」と売り込むだけでは、地域側との関係は長続きしない。RIZINが地方アリーナを満員にできる最大の理由は、各自治体や地元企業が抱える固有の課題を見極め、提案の「切り口」を柔軟に変えている点にある。

 「観光誘致で人の流れを作りたい地域もあれば、新設アリーナの稼働率を上げたい地域もある。自治体ごとに刺さるテーマは全く異なります。だからこそ各首長と直接対話して課題を吸い上げ、そこにRIZINという『人の流れを生むIP(知的財産)』をどう合致させるかを提案するのです」(榊原氏)

photo 5月に東北唯一の政令指定都市・仙台市の郡和子市長を表敬訪問(提供写真)

 さらに、地方のファンに「生の体験」を届けることへの強いこだわりも集客を支える。「僕らがこだわっているのはライブエンターテインメントです。配信画面越しではなく、重低音や観客の熱気といった『五感を震わせる空間』に身を置いてもらう。その強烈なリアル体験があるからこそ、地域での熱量が跳ね上がり、チケット完売という結果につながるのです」(榊原氏)

 地方自治体側が抱える課題への理解も、交渉の土台になっている。「県や市を問わずどの地域も『流入する人を増やしたい』という問題を抱えています。その起爆剤として、RIZINが人の流れを生むIPになっていくということを、各首長の方々にお伝えしていますし、共有できてきています」(榊原氏)。榊原氏は、地方創生への貢献は、社会的な信用を高めていくことにつながると意気込む。

 この戦略を加速させているのが、各地の自治体トップや地元のチーム・企業との直接的な関係づくりだ。2026年は地方大会に合わせ、各地の県知事・市長との対話を重ねてきた。

 仙台大会では5月に宮城県の村井嘉浩知事と仙台市の郡和子市長、広島大会では6月に横田美香県知事と松井一實市長、10月に初開催する長崎大会に向けては8月に宮地智弘副知事と鈴木史朗市長を精力的に表敬訪問するなど、地域との関係を深めている。サッカーのJ1・サンフレッチェ広島とは、コラボ企画も実施した。

photo 5月には、第15代全国知事会会長を歴任した宮城県の村井嘉浩知事を表敬訪問(左が村井知事。提供写真)

 「野球やサッカーなど地元のチームとのコラボは、その地域の方々の親近感を喚起させるための1つの起爆剤になります」(榊原氏)。首長との面会も、単なる表敬にとどまらない。「その地域を代表する知事や市町村長にお会いすることで、それぞれの地域の考えていることも、RIZIN側が理解できます」(榊原氏)。相手の政策課題を直接聞き取ることが、次の提案の材料になるのだ。

 榊原氏は、アリーナが果たすべき公共性と経済性のバランスについて、次のように強調する。「アリーナという公共インフラは、バスケットボールやサッカーのファンだけのものではありません。地域には潜在的な格闘技ファンや多種多様なスポーツ愛好家が存在します。特定競技の枠を超え、これまでアリーナに足を運ばなかった層を呼び込んで稼働率を高めることこそが、公共施設としてのアリーナが果たすべき本来の還元であり、寄与だと考えています」

photo 6月には人口100万人を超える政令指定都市、広島市の松井一實市長を表敬訪問した(右が松井市長)

平日の稼働を上げられるか? 次の成長を占う大阪「超RIZIN.5」開催

 9月10日、これまでの取り組みの成果が試される。RIZIN初となる京セラドーム大阪での「超RIZIN.5」だ。同ドームの最大収容人数は5万5000人。さらにRIZINにとって初めての平日開催という実験的な試みとなる。

 多くのアリーナやドームは週末に興行が集中し、平日の空き枠をどう埋めるかが共通の課題だ。平日にドーム級の会場を埋められるコンテンツは限られる。今回の集客や売り上げの結果によって、今後の地方展開の在り方も変わってくるだけに、RIZIN側の力の入れようもこれまで以上だ。 

 巨大ドームを満員にするための「地ならし」は、興行の数カ月前から綿密に仕組まれていた。8月14日、京セラドーム大阪でのオリックス対日本ハム戦で、出場するYA-MAN選手が始球式に登壇。2025年に広報部とは独立して新設した「広告宣伝部」が主導し、プロ野球球団をはじめとする地元スポーツ経済圏への食い込みを加速させてきた。

photo 京セラドーム大阪でのオリックス対日本ハム戦で「ANGEL CHAMPAGNE presents 超RIZIN.5 浪速の超復活祭り」に出場するYA-MAN選手が始球式に登壇した(提供写真)

 同時に、自治体を引き込む施策にも手落ちはない。8月26日には、大会に参戦するRENA選手とともに大阪府庁の吉村洋文知事を表敬訪問。2025年9月に展開した「大阪・関西万博」との公式コラボTシャツの販売を含め、地域行政を単なる後援ではなく「熱狂のパートナー」へと変える地道な巻き込み策が、興行の確実な動員へと結実している。

photo 8月、大会に参戦するRENA選手(右から2番目)とともに大阪府庁の吉村洋文知事を表敬訪問した(左から2番目が吉村知事。提供写真)

 こうした草の根の活動が奏功し、チケットの反応は上々だ。「朝倉未来応援シート」など人気席種は早期に完売し、8月18日には外野S席・A席の追加販売にも踏み切った。

 配信戦略においても、手厚い囲い込みが加速する。8月13日、サイバーエージェントが運営する「ABEMA」がRIZINの公式メディアパートナーに就任。ABEMAの有料配信「PPV」(ペイ・パー・ビュー、視聴者が大会ごとに料金を支払って視聴する課金方式)では「7日間限定の超早割」や「新規登録者への3500円キャッシュバック」といった異例の大型販促を打った。会場に足を運べないライト層の新規獲得と、LTV(顧客生涯価値)の最大化を狙う仕掛けだ。

 このタッグの背景には、プラットフォーム側の期待がある。仕掛け人であるサイバーエージェント常務執行役員の藤井琢倫氏は「RIZINは世界に誇る日本の強力なIP。ABEMAとしても世界で愛される団体へと押し上げたい」と意気込む。単なる「放映権の買収」を超え、日本のトップIT企業がグローバルコンテンツとして投資する、攻めの共同マーケティングが動き出している。

 リアル会場での演出と、デジタル配信による全国的なファン拡大──。各地で築き上げた自治体との強い連携と集客力を、この大舞台で結実させられるか。初挑戦となる「平日のドーム興行」の成否こそが、年商100億円企業への到達を左右する。

photo サイバーエージェントが運営する「ABEMA」がRIZINの公式メディアパートナーに就任した(プレスリリースより)

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