リテール大革命

「AIに買い物を任せる時代」到来? でも、小売企業は「AIに選ばれるだけ」では生き残れない、これだけの理由 がっかりしないDX 小売業の新時代(1/2 ページ)

» 2026年09月09日 06時00分 公開
[郡司昇ITmedia]

連載:がっかりしないDX 小売業の新時代

デジタル技術を用いて業務改善を目指すDXの必要性が叫ばれて久しい。しかし、ちまたには、形ばかりの残念なDX「がっかりDX」であふれている。とりわけ、人手不足が深刻な小売業でDXを成功させるには、どうすればいいのか。長年、小売業のDX支援を手掛けてきた郡司昇氏が解説する。


 「冷蔵庫には卵4個とキャベツ半玉がある。家族3人分、予算2500円以内、20分で作れる夕食を考えて。足りないものは帰りに店で受け取れるようにして」

 利用者がAIにこう話しかけるだけで、買い物が完結する──。近い将来、日本でも買い物はこんな一言から始まるかもしれません。AIが献立を考え、必要な食材を洗い出し、帰宅経路にある店舗の価格、在庫、会員価格、受け取り時間を比較します。

 「A店は2190円ですが、受け取り予約サービスがないので来店時に欠品している可能性があります。B店は2340円で、商品を確保して午後8時以降に受け取れます。差額は150円です」

 利用者が承認すれば、AIが注文します。人は実店舗を歩いて回る必要も、検索サイトや複数のECサイトを回って商品を一つずつカートへ入れる必要もありません。

 従来は人が行っていた探索、比較、入力、注文の一部をAIが担う。これがエージェンティックコマース(Agentic Commerce)です。変化の中心はチャット画面ではありません。買い物を実行する主体が、人からAIへ一部移ることです。

 エージェンティックコマースの時代、小売企業は顧客から選ばれるだけではなく、AIから選ばれる必要があります。AIに選ばれるためにはどうすればいいのでしょうか。

著者プロフィール:郡司昇(ぐんじ・のぼる)

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20代で株式会社を作りドラッグストア経営。大手ココカラファインでドラッグストア・保険調剤薬局の販社統合プロジェクト後、EC事業会社社長として事業の黒字化を達成。同時に、全社顧客戦略であるマーケティング戦略を策定・実行。

現職は小売業・IT企業双方のアドバイザーとして、顧客体験向上による収益向上を支援。「日本オムニチャネル協会」シニアフェロー Nextリテール分科会リーダーなどを兼務する。

公式Webサイト:小売業へのIT活用アドバイザー 店舗のICT活用研究所 郡司昇

公式X:@otc_tyouzai、著書:『小売業の本質2025DX


「買い物サイトを見ない生活者」が生まれる

 現在のネット通販では、生活者が検索やSNSで商品を知り、複数のECサイトを訪問します。商品ページを読み、価格、在庫、送料、到着日を比較します。

 エージェンティックコマースでは、生活者は意図と条件を伝えるだけです。探索と比較はAIが担い、顧客は最後に承認します。

 小売企業から見ると、ECサイトへの訪問、商品一覧や特集記事の閲覧、売り場回遊、ついで買いといった接点が減ります。AIの提案画面だけで購入が決まれば、顧客はどの企業から買ったかを強く意識しないかもしれません。

 便利になるほど、小売企業と顧客の接点は薄くなるのです。

エージェンティックコマースの時代、小売企業と顧客の接点は薄くなる(出所:ゲッティイメージズ)

AIと小売をつなぐ共通規格「UCP」

 2026年1月、米Googleは「Universal Commerce Protocol」(UCP)を発表しました。GoogleがShopify(カナダ)、Etsy、Wayfair、Target、Walmart(いずれも米)と共同開発した、AIエージェントと小売企業をつなぐオープンな共通規格です。

 UCP商品探索、カート、本人確認、注文、決済、購入後対応などを、AIと小売企業のシステム間でやり取りするための接続規格です。

 Googleは、検索のAI ModeやGemini上で購入を完結できるUCP対応チェックアウトを、一部加盟店向けに提供しています。米国では一部加盟店が対象で、カナダとオーストラリアを含む加盟店登録は段階的な拡大中です。日本ではまだ提供されていません。

 日本の小売にも無関係ではありません。AIが読める商品データや、外部サービスと接続できる在庫・注文基盤は、国内普及後に短期間で整えられるものではないからです。

UCP(Universal Commerce Protocol)が変えるショッパー行動(筆者作成)

AIに選ばれる商品データは何が違うのか?

 これまでの商品データは、人に商品を表示することが主な目的でした。商品名、価格、画像、在庫、ブランド、JANコードなどを登録し、人が比較します。

 AIが選ぶ時代には、それだけでは不十分です。

 例えば「小麦粉不使用で、フルーツ系のチーズケーキに近い味の間食」を探す場合、AIには原材料、味、アレルゲン、用途、代替商品まで理解できる情報が必要です。

 Googleの商品情報管理ツール「Google Merchant Center」には、会話型AIの商品理解を助ける「Conversational Attributes」が加わりました。商品Q&A、関連資料、関連商品、商品群名、バリエーション、人気順位の6属性です。

 商品Q&Aや関連商品といった属性は、まさにAIに判断材料として伝えるためのものです。

 重要なのは、商品説明文を長くすることではなく「誰に、なぜ適しているか」をAIが判断できる形にすることです。

 例えば、優秀なタブレット端末の販売員は、顧客のニーズを聞き出したうえで「その用途なら上位機種は不要です」「こちらは安いですが、屋外では使えません」などと説明します。AI時代の商品データには、この判断材料まで組み込む必要があります。

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