大手の小売店など、一般の消費者と対面で接する社員を抱える企業は別として、企業においてカスハラに対する問題意識は高まっていないように思えます。
筆者に寄せられる相談件数も他のハラスメントと比較して少ないです。あっても「うちの会社もカスハラ対策をする必要はあるのでしょうか?」といった感じで、具体性に乏しいケースが目立ちます。カスハラに対する問題意識が低いのは3つの理由があるのではないかと考えられます。
土下座の強要や暴力など、度を越した行為は別として、カスハラは接客態度に起因する「正当なクレーム」と判別しにくい点があります。利用者からの苦情や要望をカスハラと断定して拒絶すると、企業の成長や競争力を削いでしまいます。
また、例えば身体的なハンディがある人からの要望を無視すると「差別を受けた」とSNSなどに投稿され炎上する恐れもあります。パワハラも同様に部下への指導との境界があいまいな面がありますが、社内の人間関係に大きく左右されるため、カスハラと比較すると判別しやすいです。
社員が社外でカスハラ行為をしたと発覚する例外的なケースもありますが、原則としてカスハラに該当する行為は顧客や取引先によってなされます。そのため、パワハラやセクハラなどと異なり、発覚しても社内の懲戒の対象となり得ません。現場の担当者に処置を任せることになり、人事部が率先して対策をとりにくい状況があります。
会社間の取引でも、発注先からの理不尽な値下げや無理なスケジュールでの納品要求などは、カスハラに該当します。とはいえ、不合理な要望に対して受注側が声を上げることは難しい面があります。
特に取引先が大企業の場合などは「今回は我慢して要望を受け入れれば、そのうちに大口の仕事を任されるかもしれない」という営業担当者の意見に押されて無理な要求を受け入れがちです。
パワハラやセクハラなどと比較して、現状は問題意識が低いように思われるカスハラ対策ですが、全ての企業が真剣に取り組むべきです。顧客への対応不備に関する正当な要望なのか、カスハラに該当するような不当なクレームなのかを切り分ける過程で、サービス品質が向上していくからです。
またB2Bの取引において、社員の稼働時間に対して売り上げが低いなど採算が悪い顧客は、無理な要求、すなわちカスハラをしている恐れがあります。契約書やメール、電話のやり取りなどを精査してカスハラに該当する行為がないかを確認しましょう。
顧客に対して声を上げるのは難しいですが、法律上の根拠があれば主張しやすくなります。昨今、大企業と中小企業で利益率の差が広がる傾向にあります。中小企業のAI導入やDXが遅れているのが要因とされていますが、無茶な要求をする一部のクライアントに振り回されて生産性が上がらないケースもあるかもしれません。今回の法改正をきっかけに、採算が悪い企業間の取引を見直してみてください。
佐藤敦規(さとう あつのり)
社会保険労務士。中央大学文学部卒。50歳目前で社会保険労務士試験に挑戦し合格。三井住友海上あいおい生命保険を経て、現在では社会保険労務士として活動。法人企業の助成金の申請代行や賃金制度の作成に携わっている。 社会保険労務士としての活動以外にも、セミナー活動や、「週刊現代」「マネー現代」「プレジデント」などの週刊誌やウェブメディアの記事を執筆。 著書に、『45歳以上の「普通のサラリーマン」が何が起きても70歳まで稼ぎ続けられる方法』(日本能率協会マネジメントセンター)、『リスクゼロでかしこく得する 地味なお金の増やし方』『おじさんは、地味な資格で稼いでく。』(以上、クロスメディア・パブリッシング)などがある。
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