PalantirのFDEモデルと国内SIerの共通点として、野村総合研究所(NRI)を例に挙げる。同社の総合証券バックオフィスシステム「THE STAR」は、2024年5月にサービス開始から50周年を迎えた。同システムは、野村證券の系列会社9社向けに、野村證券のシステムを共同利用化して提供することから始まった。
その後、幅広い顧客に展開し「システム利用料をもとにシステム改修や運用を担う、今で言うSaaS型プラットフォーム」(NRI JOURNALより)へと発展。2024年時点で80社以上に導入され、国内の個人証券口座管理の約5割を担っている。
注目すべきは、THE STARに携わってきた同社社員の言葉である。NRI JOURNALには「お客様が増えるたびに、新機能を載せて、また頑張ってお客様を獲得し、さらに投資をして機能を載せていきました。STARはお客様に大きくしていただいたと感じています」というコメントがある。つまり、個社ごとの対応がプラットフォーム側の資産として蓄積されていることを示している。
2000年代の基盤刷新でも「NRIスタッフが各社に張り付いて支援し、1年かけて徐々に移行を進めました」(NRI JOURNALより)という。
この点を踏まえると、証券業界に根差した共通の業務基幹システムを顧客常駐と自社開発のハイブリッドで構築してきたNRIのようなSIerは、実にPalantir的な開発モデルを採用していたといえないだろうか。
NRIをはじめとした基幹システム開発を担う多くのSIerは、このような基幹側と連携したシステム提供形態を「共同利用型」と呼ぶ。これは、1回作ったものを複数社で使い、費用を広く割り当てる仕組みである。
この仕組みは、金融や社会保険の業界で使う基幹システムにおいて、企業横断で同じような業務がある領域に張り巡らされている。例えば、BIPROGYの勘定系システム「BankVision」は複数の地域銀行が採用している。日立の「NEXTBASE」やNTTデータの地銀共同センターは、地域銀行の勘定系システムを複数行で共同利用する仕組みだ。カード決済網「CAFIS」や、銀行間送金を担う「全国銀行データ通信システム」(全銀システム)の開発・運用も、NTTデータが手掛けてきた。
Palantirのビジネスと共同利用型SIは、目的や構造が異なるため一概に比較はできない。しかし“FDE型のビジネス”の素地があったのだとすれば、FDEという言葉がこの局面で浮上した意味はどこにあるのか。
顧客先で得た個社対応の成果が自社のプラットフォームに積み上がり、次の顧客に配られていくなら、そのエンジニア組織は単なる常駐SEではなくFDEチームとなり得る。
だが、各社が掲げるFDEモデルが、顧客の現場に入って個社対応のみをこなす人材の総称にとどまるなら、それは人月モデルの言い換えにすぎない。
顧客現場で得た知見を取り込むプラットフォームを持たず、稼働時間に応じて料金を請求するモデルから脱却できない会社は、例えAIを活用して生産性を100倍にしたとしても、生産性に対し従来の100分の1の人月費用しか請求できないことになる。
アンソロピックショックを生き抜いたSIerが、AI時代に引き続き評価されている理由は「AIに強いから」だけではない。常駐して持ち帰ったものを、自社の資産として積む場所を持ち、それをさらなる成長の糧にできるからなのだろう。
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