危機管理の分野でよく引用される言葉に「不正のトライアングル」がある。1950年代に米国の犯罪学者ドナルド・R・クレッシーによって提唱された理論だ。
クレッシーは人が不正に至る背景として「動機」「機会」「正当化」の3つの要素を取り上げ、この3つが同時にそろったときに不正のリスクが高まることを指摘した。今回の品質不正問題を、その3つの側面から見ていきたい。
まずは「動機」。これは不正をする理由やきっかけであり、代表的なものとしてプレッシャーやストレスがあげられる。報告書では、各BUに対してニデック本社から業績目標が割り当てられ、その達成を強く求められたこと、各BUから目標達成は現実的ではないとの意見が示されても見直されなかったこと、目標未達が続く場合は業績会議が連日、ときには1日に複数回開催され、深夜にまで及ぶ日もあったことなどが指摘されている。
また、ニデックグループの全役職員を対象にしたアンケートでは、集計対象者8万9967人のうち2万8694人(31.9%)が、品質不正の原因として「社内において納期・売上・収益・コスト削減に対するプレッシャーがあったこと」を選択したと報告書で明らかにされている。
会計不正事案では「過度な業績プレッシャー」を第1の原因としてあげていたが、それと共通する収益プレッシャーが存在していたことは明白だ。
続いて「機会」。これは不正が可能になる環境や状況のことだ。どんなに強い動機があっても、チェックが厳しければ行動には移せない。しかし、管理の甘さやチェック体制の不備があれば、不正が現実的な選択肢となる。
報告書によれば、ニデックが人事データを管理している3つの事業本部(車載既存事業本部、車載事業本部、小型モータ事業本部)の品質保証部門の人員が2021年から2025年までの間に約48%減少し、同期間におけるニデックの従業員全体の減少率(約33%)を上回った。また、全役職員対象のアンケートでは「品質保証部門が十分に尊重されていた」との回答は71.4%だった。裏返せば「尊重されていた」と思わない社員が約3割いたことになる。
そして最後に「正当化」だ。不正行為を自分の中で言い訳したり、自分に都合の良い解釈をしたりして「問題ない」と思い込もうとする心理が働くと、不正への抵抗感が薄れていく。
全役職員対象のアンケートでは「製品の製造方法や検査結果について、実際と異なる内容を顧客や認証機関などに報告したとしても、製品の安全性や性能に問題がなければ、法令や契約の違反にはならないと理解していた」という項目に対し、24.9%が肯定的な回答をしている。
「社内ルールや定められたプロセスよりも、上司や先輩から教えられた作業方法に従うべきと考えられていた」との項目に肯定的に回答した社員は32.0%に上る。こうした「結果オーライ」の発想が社内にまん延したことで、顧客要求に基づく手続きを省略する対応が正当化していったことが数字から読み取れる。
3つの側面から報告書を読み解いた。「不正のトライアングル」を構成する3つの要素がみごとにそろった事案ではないかとの印象を強くする。
永守氏「全員やめてくれや!」――なぜ優良企業は“ブラック企業”に変わるのか 「4つの型」から見るニデック不正
ニデック、岸田社長含む役員交代を検討 大規模な減損も発表か 経営体制の立て直し焦点
「人間のクズ」発言、「意図的な無視」……横浜市長のパワハラ問題から考える組織リスク
24.6万件の個人情報が漏えいか デジタル庁GSSへの不正アクセスで見えた「ゼロトラスト」の落とし穴Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング