「どいつもこいつもやる気なしの無責任野郎ばかりそろいやがって!(中略)全員やめてくれや! こんな人物と一緒に仕事は出来ぬ!」
これは、モーター製造大手のニデック(旧社名:日本電産)の創業者、永守重信氏が、事業計画策定を巡る上申書に残したとされる手書きコメントの一部です。
ニデックといえばかつては優良企業のイメージでした。そこから一転し、今では同社に厳しい目が向けられています。きっかけになったのは、グループ会社で発覚した会計不正問題です。4月17日に公表された第三者委員会の調査報告書では、2025年度第1四半期までの営業利益に与える累積影響額がマイナス1664億円に及ぶとされました。
9月4日に公表された調査委員会の調査報告書では、事態の全体像と組織が抱える問題点が改めて明らかにされています。
不正が起きた原因について報告書では、永守氏を起点とした過度な業績プレッシャーをまず挙げるべきだと指摘しています。「あらゆる権限が永守氏に集中していた」とも記されており、事実が報告書の通りであれば、ブラック企業に該当するといっても過言ではありません。
度重なる不正の責任を取って社長と会長が辞任する事態となった中部電力でも、経営層からの叱責(しっせき)によるプレッシャーが一因となった可能性が報じられています。優良企業にも見える組織が、なぜ不正が横行する「ブラック企業」のように変貌してしまうことがあるのでしょうか。そのタイプ分類とともに、組織の浄化を阻む病理を探ります。
ワークスタイル研究家/しゅふJOB総研 研究顧問/4児の父・兼業主夫
愛知大学文学部卒業。雇用労働分野に20年以上携わり、人材サービス企業、業界専門誌『月刊人材ビジネス』他で事業責任者・経営企画・人事・広報部門等の役員・管理職を歴任。
所長として立ち上げた調査機関『しゅふJOB総研』では、仕事と家庭の両立を希望する主婦・主夫層を中心にのべ5万人以上の声をレポート。
NHK「あさイチ」「クローズアップ現代」他メディア出演多数。
厚生労働省が開設している労働条件に関する総合サイト「確かめよう労働条件」では、ブラック企業の一般的な特徴を以下のように説明しています。
1. 労働者に対し極端な長時間労働やノルマを課す
2. 賃金不払残業やパワーハラスメントが横行するなど企業全体のコンプライアンス意識が低い
3. このような状況下で労働者に対し過度の選別を行う
ニデックの報告書に記されている内容を1〜3の特徴に当てはめてみると、会計不正を行っていたころの同社には、重なる部分があることが見てとれます。1は、非現実に思えるほど高い目標が課せられていたこと、2は会計不正問題などが起き、パワーハラスメント(パワハラ)が疑われる強い叱責なども見られること、3は退職や降格をチラつかせるなどして圧力をかけていた様子がうかがえることです。
例えば4月の報告書には、冒頭で触れたように、事業計画策定を巡る上申書に永守氏が以下の手書きコメントを残したことが記載されています。
「どいつもこいつもやる気なしの無責任野郎ばかりそろいやがって! 経営音痴の数字づくりではどんどん目線が下がっていく。却下だ。全員やめてくれや! こんな人物と一緒に仕事は出来ぬ!」
他にも、永守氏がニデック本社のCFOに対して送った以下のメール文面なども記されています。
「今の実績のままでは役員退任か降格人事がまっていることを自覚認識してQ3結果を注視している。君にとって最悪の結果にならないことを祈っているので、死ぬ気で結果を出していってほしい。全てはQ3結果で決まるだろう」
いわゆるブラック企業にはさまざまなタイプがあり、中には組織の在り方自体に変化はなくても働く社員の見方が変わることを機に転換し、ブラックだと認識される場合もあります。
社員たちにブラック企業という認識があるか否かを縦軸、組織の原動力が属人化されているか構造化されているかを横軸にとって整理すると、大きく4つに分類できます。
まず、ブラック企業という認識が社員たちにあって、絶大な権限を持つ有能なトップが組織を引っ張っているなど、組織の原動力が属人化されている場合は「専制君主型」です。トップが聞く耳を持たない限り、代替わりするまでブラック体質は変わりません。
次に、ブラック企業という認識があり、トップが交代しても事業運営のノウハウが仕組み化されているなど、組織の原動力が構造化している場合は「文化継承型」です。ブラック体質もろとも組織のカルチャーが受け継がれていきます。しかし、カルチャーが時代の変化に合わなくなったり新たなリーダーが方針転換したりといった場合に、消滅することもあります。
一方、社員たちに認識がない場合は、その時点ではブラック企業とは言えないものの、見方によって変わる可能性がある予備軍のような存在になります。組織の原動力が属人化されている場合は「表裏一体型」です。「人類の歴史を変える」「社会に革命ともいえる発展をもたらす」など、トップが掲げる壮大な夢を共に追いかけているような組織は、夢から覚めた途端に「専制君主型」のブラック企業に変わることがあります。
時代の先端を切り拓くような事業に携わる一方で、ハードワークで知られているような会社などが当てはまるかもしれません。社員は難易度の高い仕事に面白味を感じ、寝食を忘れるほど没頭します。夢中になっている間はブラック企業という認識ではなく、トップからの無理難題も含めて仕事を楽しむことができます。
ブラック企業という認識はなく、組織の原動力が構造化されている場合は「やりがい搾取型」です。仕事自体が好きでやりがいが感じられる状況だと、低賃金など就業環境が芳しくなくても仕事を心から楽しむことができます。しかし、ふと我に返って過酷な環境を認識した時に「文化継承型」ブラック企業へと見え方が変わることがあります。
報告書の内容から、ニデックがブラック企業に該当するとしたら、最も特徴が合致しそうなのは「専制君主型」です。経営幹部が過度な業績プレッシャーを受け、みな創業者である永守氏の顔色をうかがいながら仕事している状況が伝わってきます。
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