永守氏から経営幹部に頻繁に送られていたとされるメールには「やる気にない幹部は、一日も早く日本電産グループを去って貰いたいと思う」(原文ママ)といった強烈な文言も見られます。
一方で「一点の曇りもない経営を基本としたい」「『不正をやるくらいなら、未達でも構わない』と繰り返し言ってきた」など、王道経営と王道経理処理を最優先しようとする永守氏の強い信念も見てとれます。発言の通り実践されていれば、会計不正は起こらなかったはずです。ただ、思いの強さはもろ刃の剣でもあります。
人の可能性を信じ、期待し、成長させようとするほど過度に高い目標を課し、突き放すようなマネジメントに陥りがちです。中にはその手法によって覚悟を決め、実力を磨いてトップに認めさせる後継者が現れるケースもあるかもしれません。
しかし、課せられた目標が高ければ高いほど実現は難しくなります。トップが粘り強く厳しい言葉でハッパをかけたとしても、幹部たちが意気に感じている間は「表裏一体型」かもしれません。ところが、限界を迎えて疲弊してくればトップと幹部たちとの間に思いのズレが生じ始めます。
純粋に努力を重ねられる間はズレが生じませんが、幹部たちが疲弊してくるとトップに対しては頑張っている体裁を繕いつつ、部下たちに対してはトップと同じように高圧的な振る舞いをするようになるなどします。こうなると、幹部は圧力をかけられる被害者でもあり、圧力をかける加害者でもあります。
業績プレッシャーが強すぎて上役の顔色をうかがう風潮が組織内に馴染んでしまうと、トップの期待に応えているように見せること自体が目的となり、体裁を繕うための不正行為に対しても感覚がマヒしてしまうことになりがちです。
中には勇気を持って過ちを指摘する幹部や社員がいたとしても、マヒした者が多数を占める組織だと「和を乱すのは良くない」などとたしなめる正義の伝道者の如き者が現れ、多くの社員が耳を貸してしまいます。
一見すると穏便にコトを収めようとする真っ当な言い分に聞こえて、内実は現状維持が心地良いだけの保身に過ぎません。このような相応の影響力があるエセ伝道者は、組織の正常化を阻む病理となり得ます。
エセ伝道者の多くは、社内に顔が利くベテラン社員だったりします。自分の行いを正義だと勘違いしているだけにタチが悪く、組織を浄化しようとする勇気ある動きを次々と封じ込めていきます。そうなると自浄作用を働かせようとしても極めて難しく、ブラック体質が温存されてしまう組織構造が出来上がります。
経営トップが絶大な権限を持っている組織において起きた不正行為は、トップ自身に最大の責任があります。しかしながら、自浄作用を働かせる可能性を摘んでしまうのは、イエスマンと化した従属幹部やエセ伝道者たちです。
社内の実情を外部からうかがい知るのは限界があり、ブラック化を避けるためには自浄作用を働かせる必要があります。元人事部長の告発を機に市長のパワハラが明るみに出た横浜市の事例は、組織の暴走を止めた一つの手本と言えます(参考記事:「人間のクズ」発言、「意図的な無視」……横浜市長のパワハラ問題から考える組織リスク)。
一度ブラック体質の組織構造が出来上がると、解消するのは極めて困難です。そうなる前に現状を変えようとする勇気ある人材を後押しし、ひたすらに従う従属幹部やエセ伝道者の言い分に耳を貸さず排除することができれば、有効な予防策となり得るのではないでしょうか。
「人間のクズ」発言、「意図的な無視」……横浜市長のパワハラ問題から考える組織リスク
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