横浜市の山中竹春市長による、職員へのパワーハラスメント(パワハラ)が話題を集めています。第三者調査で複数のパワハラ行為が認定された山中市長は、8月13、14日に開かれた横浜市会の総務委員会で「重く受け止めている」「生まれ変われるよう、信頼を回復できるよう努力する」と述べました。
横浜市が7月30日に公表した「横浜市長の言動にかかる第三者による調査」の報告書によると、山中市長は職員を「ダチョウ」「人間のクズ」と呼んだり「バカ」「アホ」などと発言したことが明らかになっています。
さらに「書類を投げつける」「銃撃ポーズ」(手で拳銃を作り、銃口を向ける仕草)を取る「意図的な無視」なども認定されました。
これらが事実であれば、今回の山中市長の一連の行動は明らかにパワハラに該当します。
一方で、職場におけるハラスメントへの社会的な認識が大きく変化する中、パワハラ認定されないよう上司が萎縮し、業務指示や部下指導がしづらくなっているという嘆きの声も聞こえてきます。
パワハラはなかなかなくならない。しかし「指導できない弱腰上司」も急増している――現代の職場で求められる業務指示の在り方について考えると、見えてくるものがあります。
ワークスタイル研究家/しゅふJOB総研 研究顧問/4児の父・兼業主夫
愛知大学文学部卒業。雇用労働分野に20年以上携わり、人材サービス企業、業界専門誌『月刊人材ビジネス』他で事業責任者・経営企画・人事・広報部門等の役員・管理職を歴任。
所長として立ち上げた調査機関『しゅふJOB総研』では、仕事と家庭の両立を希望する主婦・主夫層を中心にのべ5万人以上の声をレポート。
NHK「あさイチ」「クローズアップ現代」他メディア出演多数。
ハラスメントという言葉が浸透していなかった時代の職場では、経営者や上司など、強い立場にいる者が横暴に振る舞っても、問題として捉えられずに済んでしまうことがありました。性的な言動で相手を不快にさせるセクシュアルハラスメント(セクハラ)なども、いまより問題視されにくい時代でした。
ただ、当時はそれが当たり前とされる職場環境でもありました。仕事で失敗した時に「ポンコツ」などと厳しい言葉でののしる上司がいても、職場でいまほど問題視されなかったため、反発するのではなく聞き流すテクニックを磨く部下の姿も見られました。
「上司に逆らわないこと」を美徳とするような不文律があり、ハラスメントを受けても声を上げにくく、あらがうことをあきらめざるを得ない空気がありました。
横浜市長のパワハラを巡る一件は、時代が大きく変わったことを感じさせられます。告発したのは当時の人事部長です。人事部門は本来、職員の相談に対応し、職場環境の改善を担う立場でもあります。その人事部長自身が市長の言動を問題視して声を上げたことは、今回の事案の異例さを示しています。
横浜市が7月30日に公表した「横浜市長の言動にかかる第三者による調査」の報告書を確認すると、パワハラ行為として認定された内容には、暴言や威圧的な動作など、複数の問題行為が含まれていました。
まずは暴言です。職員を「ダチョウ」「人間のクズ」「おばさん」と呼ぶ、国際会議を誘致できなければ「切腹だ」と発言したことなどが認定されました。他にも「バカ」「アホ」、先ほど挙げた「ポンコツ」などの言葉も見られます。
次に動作です。「怒鳴る」「書類を投げつける」「銃撃ポーズ」(手で拳銃を作り、銃口を向ける仕草)の他、日常的に「机を叩く」「にらみ付ける」「意図的な無視」などが認定され、これらは精神的な苦痛を与えると指摘されています。さらに「深夜・休日を問わない常態的な業務連絡」「市長室への出入り禁止」「人事権を背景とした職員支配」なども認定されました。
ひどい事例のオンパレードですが、かつての職場文化や価値観が改められていなければ、良くない言動だとは認識していたとしても、そこまで大きな問題だとは思わないのかもしれません。パワハラに対する社会的な認識の変化についていけず、感覚が旧態依然としたままの経営者や管理職もいるのではないでしょうか。
厚生労働省が公開している『事業主が講ずべきハラスメント対策パンフレット』には、パワハラについて「職場において行われる(1)優越的な関係を背景とした言動であって、(2)業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、(3)労働者の就業環境が害されるものであり、(1)から(3)までの3つの要素を全て満たすものをいいます」と説明されています。
横浜市で起こったことが第三者調査の報告書通りであれば、横浜市長の一連の言動がパワハラに該当することは明らかでしょう。(1)の「優越的な関係」については比較的判別しやすいとしても、(2)の「業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」や(3)「就業環境が害される」については、どの程度であれば該当するのか分かりにくい面があります。
例えば、部下が仕事でミスをした時に「ダメじゃないか!」と叱った場合です。大声を出しただけでパワハラになるわけではありません。ただし、業務上必要かつ相当な範囲を超えた叱責(しっせき)であれば、パワハラに該当する可能性があります。大声でなかったとしても、部下の人格を否定するような言動を伴い、日常的に何度も繰り返されていたとしたら、パワハラに該当する可能性があります。
どこからがパワハラになるのか判断できず「叱ってもいいのだろうか」と萎縮して部下を指導できなくなってしまう上司もいます。しかし、部下のミスが人命に関わるなど、重大な事故につながる可能性がある場合や緊急性が高い場合には、大声を出してすぐにストップさせなければならないケースもあるでしょう。
ハラスメント意識に鈍感でパワハラをし続けてしまう上司も、敏感になりすぎて萎縮してしまう弱腰上司も、どちらにも共通するのは、結果として組織のパフォーマンスを損なう可能性があることです。パワハラ上司に対して部下は意見を言いづらく、報連相を怠りがちになります。叱責を恐れて不都合な事実を隠し、対策が遅れる原因にもなりかねません。
一方、上司がパワハラを恐れて萎縮すると、部下の業務上の不具合や問題点を指摘できず、改善されにくくなります。顧客や会社に損害を与えることになりかねません。上司がパワハラに鈍感でも敏感過ぎても、仕事上はマイナスだということです。
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