宝塚歌劇団の劇団員が自ら命を絶つことになった痛ましい事件。歌劇団側は、上級生によるパワーハラスメント(パワハラ)があったことを認め謝罪しました。ネット上では「パワハラという名の犯罪」「亡くなってからじゃ遅い」などと辛辣(しんらつ)な声が飛び交っています。
大企業にパワハラ防止措置が義務化されたのは2020年のこと。22年からは中小企業にも適用範囲が広がって全面施行されています。しかしながら、会社の上司をはじめ政治家や警官、医師などさまざまな加害者によるパワハラ事件が、いまも後を絶ちません。
これだけ世の中で騒がれ、してはいけないことだと分かっているはずなのに、なぜパワハラは一向になくならないのでしょうか。恐怖心を抱かせて部下をコントロールしようとする「ストロングマネジメント」の発生メカニズムと、そこから脱却するためのヒントを考えてみたいと思います。
ワークスタイル研究家。1973年三重県津市出身。愛知大学文学部卒業後、大手人材サービス企業の事業責任者を経て転職。業界専門誌『月刊人材ビジネス』営業推進部部長 兼 編集委員、広報・マーケティング・経営企画・人事部門等の役員・管理職、調査機関『しゅふJOB総研』所長、厚生労働省委託事業検討会委員等を務める。雇用労働分野に20年以上携わり、仕事と家庭の両立を希望する主婦・主夫層を中心にのべ約50000人の声を調査したレポートは300本を超える。NHK「あさイチ」他メディア出演多数。
現在は、『人材サービスの公益的発展を考える会』主宰、『ヒトラボ』編集長、しゅふJOB総研 研究顧問、すばる審査評価機構 非常勤監査役の他、執筆、講演、広報ブランディングアドバイザリー等の活動に従事。日本労務学会員。男女の双子を含む4児の父で兼業主夫。
初めに、上司と部下の次のようなやりとりから考えてみましょう。
上司:「このペースで目標が達成できるのか?」
部下:「 このままでは難しいかもしれません……」
上司:「それで?」
部下:「……」
上司:「どうすんの?」
部下:「どうすればいいでしょうか……」
上司:「はあ? それを考えるのがキミの仕事だろ!」
高圧的な上司の態度に、部下がどんどん萎縮していく姿が浮かんできます。厚生労働省は、職場におけるパワーハラスメントを以下のように定義しています。
「職場において行われる(1)優越的な関係を背景とした言動であって、(2)業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、(3)労働者の就業環境が害されるものであり、(1)から(3)までの要素を全て満たすものをいう」
最初に優越的な関係とあるように、職場では大抵の場合、パワハラの加害者は上司で被害者は部下です。上司としては部下を鍛えようとあえて厳しく接しているだけで、心の奥底には愛情を秘めているのかもしれません。しかし、あらゆるハラスメントと同様、パワハラに該当するか否かは、受け手側がどう感じるかが大きな鍵を握っています。
厚労省の調査によると、大企業にパワハラ防止措置が義務化された20(令和2)年度以降の「パワーハラスメント防止措置」に関する相談件数は以下のグラフの通りです。
同調査の22(令和4)年度の相談件数は4万4568件で、前年度の1万8422件と比較して2.4倍と極端に増えていますが、これはパワハラ防止措置の全面施行を受けて、21年度まで個別労働紛争解決制度の施行状況の「いじめ・嫌がらせ」にカウントされていた相談件数が、22(令和4)年度から同調査に上乗せされたことが大きく影響しています。
ただ、集計ルールに変更がなかった20(令和2)年度から21(令和3)年度にかけても、相談件数が1万4078件から1万8422件へと30%増加しています。パワハラに対する意識は年々高まっている様子がうかがえます。
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