ここで日本の個人情報保護法に立ち戻って考えたい。同法は、個人情報の利用目的をできる限り特定し、その達成に必要な範囲を超えて扱わないよう求める。利用する必要がなくなったデータは、遅滞なく消去するよう努めなければならない。
これに対して欧州連合(EU)の「一般データ保護規則」(GDPR)は、目的に照らして必要な範囲に限る「データ最小化」を原則に掲げる点で対照的だ。
個人情報保護委員会は10月7日の注意喚起で、不要になった個人データの消去を改めて求め、こうした対応が徹底されずに漏えいが深刻化した事例にも接していると明かした。
海外では「クレジットカードのデータを持たない設計」が定着しており、その仕組みをクレジットカード以外の個人情報にも広げる動きが出ている。
EUは2024年に採択した規則で、加盟国に「国民向けデジタルIDウォレット」の提供を求めた。欧州委員会は、正確な生年月日を明かさずに年齢確認に使えることを、このウォレットの特徴の一つに挙げている。店が受け取るのは「条件を満たすかどうか」だけで、生年月日そのものではない。
ログインでも同じ発想がある。米Appleが提供する機能「メールを非公開」は、Webサイトやアプリケーションに登録するランダムなメールアドレスを生成して本人のアドレスに転送する仕組みで、アプリ側は本物のアドレスを受け取らない。
もちろん、企業自身はデータを保持していなくても、預けた先が攻撃されれば情報が漏えいする。個人情報保護法は、個人データの取り扱いを委託する場合、委託先に対する必要かつ適切な監督を求めている。預ければ終わりではなく、預け先を選ぶ選定責任が残る点には留意しておきたい。
今後のデータ保持の体制も重要だが、目の前の守りは急ぐ必要がある。NICTは、アプリを解析されて内部構造や仕様が漏れても、裏側にあるサーバの安全性を確保できる設計・運用を求めている。また、2026年8月以降のアクセスログの確認も推奨している。
ただ、どれだけ守りを固めても、手元に情報がある限り、漏えいのリスクはなくならない。今回クレジットカード番号が無事だったのは、それが各社の手元になかったからだ。
だとすれば、アプリを持つ企業がこれから問うべきは「どう守るか」の前に「その情報を本当に自社で持つ必要があるか」だろう。販売促進のために生年月日そのものが要るのか、年代が分かれば足りるのではないか。会員登録時に入力を求める項目を、自社で持つ理由から見直してみる価値はある。
決済で当たり前になった「持たない」設計は、EUのデジタルIDやAppleのメール機能のように、本人確認やログインの領域にも広がり始めている。
アプリ会員の情報は販売促進活動の資産として集められてきたが、攻撃のコストが下がる時代には、持っている量がそのまま負債の大きさにもなり得る。「守る」と同じ熱量で「持たない」を設計に組み込めるかどうかが、次の漏えいの被害を左右することになりそうだ。
【一体何が?】21日夜に「緊急メンテナンス」続々 業務ツール、ソシャゲ、通販、自治体Webサイトなど
“緊急メンテの夜”までの一部始終は? 8月にAIで「PHPの重大な脆弱性」発見→OpenAIが即応チームを招集
不正アクセスで「大量の個人データが漏えい」 個人情報保護委員会が注意喚起、企業が今すべき対策は?
「情シスだけの問題でない」「必要な投資を」 国家サイバー統括室、相次ぐ不正アクセスに見せた“危機感”
「当然、攻撃者はAIを悪用する」――不正アクセスに対峙する国家サイバー統括室を直撃、日本の情報をどう守る?
【不正アクセス10月1〜9日】焼肉きんぐ1078万件、ローソン215万件、JR東206万件など(発表まとめ)Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング