では、企業が「止まらない(止まってもすぐ立ち上がる)」ためには何をすべきか。アイシン九州では、天井クレーンの脱輪防止や金型棚のストッパーといった地道な備えが効いた。10年前と今回の地震からは、3つの処方箋を導ける。
第一に「自社にとってのドアチェック」となるような、調達先が1カ所に偏った基幹部品を見つけ、平時から分散ルートを確保すること。一次サプライヤーだけでなく、二次、三次までさかのぼることが大切だ。Nexperiaのような地政学的な急所も、この作業で浮かび上がるはずだ。
第二に、BCPの磨き方だ。多くの企業が、この10年で整えたBCPを迅速な対応の要因に挙げる。ただし、進化とは「より細かく」なることではない。むしろ逆で、基本的な役割分担など要所だけ押さえて現場の自由度を担保することが奏功するという。熊本市内で工場が被災した中小移動棚メーカー、金剛の田中稔彦社長は、BCPにおいて「マニュアルで定めるのは事業活動の50%でよい」と日本経済新聞に語っている。
大手コンサルティング会社のEYによると、先進的な考え方は「オールハザード型」(結果事象型)だ。地震、水害といった「原因」ごとではなく「拠点停止」「インフラ途絶」といった「結果」で備える。部品が届かなくなる原因が地震でも、台風でも、輸出規制でも「止まったらどうするか」は変わらない。地政学リスクをBCPに組み込む近道でもある。
第三に、クラスタの本分を生かしたい。平時から取引先と復旧の段取りを相談し、横の連携を強めておくことが大切だ。熊本で被災しながら素早い復旧に成功したソニーの場合、パートナー企業との連携を日ごろから準備してきたと説明している。
企業が目を向けるべきは、地震だけではない。地球温暖化で風水害も激甚化している。熊本地震直後の8月にも、トヨタは台風13号の接近を受け、国内にある14工場のうち9工場(28ラインのうち17ライン)の操業を止めた。さらに地政学リスクや、AIで高度化するサイバー攻撃も加われば、一昔前の感覚で「平時」と呼べる時間のほうが少なくなっているのかもしれない。
改めて熊本に目を向けたい。地震の翌日、菊陽町ではTSMC第2工場の建設工事が早くも再開していた。8月3日には第1工場が通常生産に戻っている。台湾リスクに備えた分散先として、地震国に完成しつつある「シリコンアイランド」。今回の最大震度7の地震で、TSMC進出後初めての試験を受けたことになる。
次の試験が地震なのか、海の向こうの有事なのかは分からない。有事が平時になる時代に問われるのは、世界で分散しつつ、地域では止まらない集積を築けるかどうかだ。
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