要介護認定の状況をもとにしたデータを見れば、一般的な捉え方にそった健康寿命が分かる。上のグラフは、全国の介護保険の利用情報から作成されたもので、65歳の人が死亡するまでの間、自立して(要介護認定2以上を受けずに)生活している期間と、自立していない(要介護認定2以上になった)期間を、男女別で年次推移を表したものだ。
男性では、2010年の平均余命が18.9年で、そのうち自立生活期間が17.2年、自立していない期間が1.6年となっている。女性では、平均余命が24.0年で、自立生活期間が20.5年、自立していない期間が3.4年となっている。
要するに、一般に認識されている意味の「健康寿命」は、2010年時点で男性が82.2歳、女性が85.5歳なのである。(2010年時点での65歳の人の平均寿命は、男性が83.9歳、女性が89.0歳。)また、介護を要する期間も男性で1.6年、女性で3.4年なのであれば、健康寿命を延ばそうという掛け声など必要を感じないほど短いと言えないだろうか。
ここで、平均寿命が男性80歳、女性が87歳なのに、それを健康寿命が超えているのはおかしいではないかと思う人がいるかもしれない。確認しておくと、平均寿命とはゼロ歳児が平均的に何歳まで生きそうかという推定値である。だから確かに、厚労省が発表している「全ての年代に対するアンケートから導いた健康寿命」と、ゼロ歳児の寿命を比較しても問題はない。
しかし、ほぼ全ての人が認識している「健康寿命」とは、高齢者があと何年くらい自立生活できるかであるから、高齢者とされる65歳の平均余命と比べられるべきであって、ゼロ歳児の寿命と比べても意味はない。要するに、健康寿命という定義も統計的手法も間違ってはいないが、国民の興味関心とは異なる結果になってしまっているということである。
今、私たちが共有すべきなのは、健康寿命は男性:82歳、女性:85歳、介護を要する期間は男性:2年弱、女性:3年半程度という事実である。70歳代前半で健康寿命が尽き、10年も介護状態になるというのは事実とは全く異なるということだ。
間違った認識は、行動を誤らせる。前者のような事実をしっかりとらえれば、高齢者も次世代も長い高齢期をどのように楽しみ、充実させるべきかを考えるはずだ。後者のような情報を真に受けると、衰えや病気や死に対する恐ればかり考える、後ろ向きな高齢者になってしまうだろう。(川口雅裕)
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