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“出版不況の中でも売れる本”を生み出す「ウェブ小説」の仕組みとは?セミナー「小説投稿サイトの現在」(3/3 ページ)

出版不況の中でも、毎年ベストセラーは生まれている。映画化もされた川村元気『世界から猫が消えたなら』は累計100万部、又吉直樹の次に売れている新人作家・住野よるの『君の膵臓をたべたい』は累計55万部を突破した。「出版不況でも売れる本」に隠された「ウェブ小説」の秘密とは?

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なぜ、ウェブ小説は売れるのか

 こうした小説投稿サービスに必ずといっていいほど備わっているのがランキング機能。閲覧数や“お気に入り”などを目安に、読者からの評価がはっきりと数字で見えるようになっている。

 このランキングシステムが、ヒット作を生み出している。基本的にランキングは、キャッチーな作品が上位に行きやすい傾向がある。また、盛り上がる展開やキャラクターが描かれると、読者の反応が大きくなる。作者はそれを分かっているので、読者からの支持を得るために、よりキャッチーな物語を生み出すようになる……という循環が見られるのだ。

 ランキングに上位になっている作品は“人気作”なので、さらに読者が集まる。人気が一定数を超えると書籍化の声がかかるケースが多いため、それを目指して作者も頑張る――といったサイクルが、「小説家になろう」や「エブリスタ」では発生している。

 そうして書籍になった本は、サービス内のユーザーにとっても、書店で初めて手に取る読者にとってもキャッチーな物語となるので、「デビュー作でも大ヒット作」になるパターンが見られるのだ。

 「これまで、作家の育成とプロモーションは雑誌や新人賞によって行われていた。雑誌が不調の今、その役割を新たに果たすようになったのが小説投稿サイト」(ライターの飯田一史)

 出版社側にとってもメリットは大きい。新人賞や雑誌で新人を発見・育成するのは、コストが掛かる上に、人気が出ないリスクも大きい。その一方、ウェブ小説なら、“Webでこれだけ人気”という数字がはっきり見れて企画が立てやすく、たとえ結果が出なくても、出版社側のダメージは少ないのだ。

「エブリスタ」から生まれた作品(左)、「カクヨム」から刊行予定の作品(右)。ジャンルがさまざまなのが表紙から見て取れる

ウェブ小説はレベルが低い?

 このように聞いていくと、「ランキングだけで作品を選んでいくと、似たような小説ばかりが生み出されてしまうのでは?」と思う人もいるかもしれない。事実、ウェブ小説は「レベルが低い」「似たような小説ばかり」といった批判を浴びることもある。

 各サービス運営者は、ランキングについてどのように考えているのだろうか。

 「ランキングは読者の需要が分かるものだが、一方で一極化集中のきっかけになってしまう。作品数もどんどん増えていく中で、難しいがバランスを取っていきたい」(「小説家になろう」平井)

 「ランキング以外の作品への導線を増やす必要がある。作品をピックアップしてみたり、『レビュー機能』を充実させてみたりと、人気や面白さの指標を1つにしないようにしたい」(「カクヨム」萩原)

 「ランキングは悪いものではない。ただし、ランキング上位にあるコンテンツが“一番いいコンテンツ”ではないと考えている。ランキングには上がってこないものを発掘するために、ランキング外だけど読者の反応がいい作品もチェックしている。成功事例をたくさん作っていって“ウェブ小説はリテラシーが低く、文化的に価値が低いものだ”という考え方を変えたい」(「エブリスタ」芹川)

 最初に紹介した『君の膵臓をたべたい』も、実はランキングの上位作というわけではなく、読者の熱心なレビューに背中を押されて書籍化が決定した作品。小説投稿サイトが生み出す“売れる作家”は、これからますます増えていくはずだ。もしかしたら、既にあなたも気づかずに手に取っているかもしれない。

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