旅先で学ぶ、私たちが食べることの意味:内田恭子の「いつもそばに本があった」(3/4 ページ)
旅はいつだって魅力的だ。どこへ行こうかと考えているだけでも楽しくなってしまう。そんな旅先で出会うおいしい食べ物や素敵な人々。そこから私たちが学ぶことはたくさんある。
西表島での出会い
出会いと言えば、この本にも出てくる西表島。私も昨年ふと「西表島に行こう」と思いついて、訪れたばかりなのだ。誰かが行ってきたという話を聞いたわけでもなく、ある日突然、ただ頭に浮かんだだけ。西表島は石垣島から船で45分くらいのところにある、島全体の約90%が亜熱帯の原生林に覆われている離島だ。まさに自然を感じる、どころではなく、自然の中にわれわれ人間がお邪魔する、というほうがしっくりくる場所だった。ここでの旅でもやはり忘れられない出会いがたくさんあった。
われわれ家族のガイドを務めてくださった森本さん。最初お会いしたときは「島の仙人!?」と思うくらいの風貌で、日焼けした肌に透き通るような目、そして真っ白なヒゲが印象的だった。さっそく夜のジャングル探検へ。まさに探検。道のないジャングルを懐中電灯だけを頼りに歩いて行く。洞穴前に立って、日が暮れたと同時にえさ探しに飛び立っていく500匹ほどのコウモリを目の前(というか、コウモリがワサワサとぶつかっていく)で見たり、「ハブがいるから踏まないようにね」なんて言われて足元を照らすといきなりハブやヤシガニがいたりと、驚きの連続だ。
でも、不思議と森本さんといるとちっとも怖くない。普段ならギャーギャー大騒ぎしそうな私なのに、なぜだかそうはならない。ジャングルの主(あるじ)たちに対するリスペクトか、大自然がそうさせたのか。ジャングルを突き進むと、いきなりぽっかりと浜辺に出る。懐中電灯を消しても月明かりでほのかに明るい。亀が産卵したときに浜辺につけた道筋が、薄明かりに綺麗に浮き上がっている。命と自然のつながり。言葉にならない何か熱いものが胸に満ちてくる。ホテルに帰ってみれば、出掛けるときに38度あって気になっていた長男の熱もすっかり下がっていた。自然の力、恐るべし。
翌日も森本さんに連れられて、行程1キロくらいの滝登り。カヌーでマングローブの中をくぐって、滝までの坂道を登っていく。大人だってキツイくらいなのに、6歳と3歳の子どもたちも文句を言わず森本さんの後をついていく。森本さんのキュッとしまった、日焼けした足が軽々と崖を登っていくのを見ると、やっぱり仙人だと思う。
道すがら、鮮やかなブルーの石垣トカゲを見つける。決して指でつかんではいけない。そっと手を差し伸べて、手に乗ってきたら大丈夫。島の生き物に人間の怖さを教えてはいけない。自然のあるべき姿を人間の興味本意で崩してはいけない。島を愛する人ならではの言葉。汗だくで滝に着き、そこでひと泳ぎ。透き通った水が気持ち良すぎて、岩から皆で飛び込む。その後に森本さんが出してくださったおにぎりとパイナップルのおいしかったこと! 西表島で作られたものを食べることの大切さを伺いながら、おいしくて普段以上に食べてしまう。
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