9階建ても登場 都心で多層階の家を仕掛けるパナホーム:その狙いは?(2/4 ページ)
3階以上の多層階住宅の住宅着工棟数が増えているのをご存じだろうか。特に土地の価格が高く、土地面積が狭い都市部での多層階化が進んでいる。その市場でトップシェアを誇るのがパナホームだ。
都心部の多層階住宅の課題は?
だが、多層階住宅にはいくつか課題がある。
多層階では3階建てが主力であり、全体の約9割を占めるが、3階建ての建設では北側斜線制限がかかることがあるという点だ。特に都内では、それが多くのエリアで適用されている。
一般的に北側斜線制限は、隣の住居の日当たりを確保するために、真北方向に向けて、建物の形状を斜線で制限するというものだ。東京都で多く用いられている第2種高度斜線では、5メートルの高さから上は、勾配屋根としなくてはならないため、2階部分の一部と3階部分の一部が削られることになる。
パナホーム 多層階事業部の梅山勝敏事業部長は「都内では第2種高度斜線のために、3階部分がかなり削られることから、住空間確保という観点からのメリットが薄くなり、3階建てをあきらめてしまう例も多かった。住宅メーカーとして、3階部分を大きく取れる提案をしなくてはならないと考えていた」と説明する。
先に触れた「小規模宅地等の特例」への注目度は高まるものの、都市部の住宅地では厳しい法的規制に阻まれ、二世帯住宅を建てようとしても、3階建て住宅の建築が厳しく、仮に3階建て住宅を建てたとしても、3階部分に十分な空間を確保することは難しいのが実情だ。
2つ目は、都内の場合には、狭い道路が多く、それらのエリアでは、3階建てを建てたいと考えても、クレーンなどの重機が入らず、工法にも制限がかかるという点である。これも、3階建てをあきらめる理由になっていた。
さらに、昨今、浮上しているのが、3階部分が削られることで、屋根に設置される太陽光パネルの数にも制限が生まれ、ZEH(ゼッチ=ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の実現が難しくなるという課題だ。ZEHとは、一言でいえば、自宅で作るエネルギーが、使うエネルギーよりも大きい住宅のことを指す。経済産業省では、「外皮の断熱性能などを大幅に向上させるとともに、高効率な設備システムの導入により、室内環境の質を維持しつつ大幅な省エネルギーを実現した上で、再生可能エネルギーを導入することにより、年間の一次エネルギー消費量の収支がゼロとすることを目指した住宅」としている。ここで言う一次エネルギー消費量とは、暖房冷房、換気、給湯、照明にかかわる電力消費だ。
太陽光パネルを屋根全体に搭載できる2階建てでは、ZEHを実現しやすいが、北側斜線制限がかかる都内の3階建てでは、太陽光パネルを設置する南側の屋根スペースも小さくなり、ZEHを実現するのは極めて困難だと言われる。政府は20年までに新築戸建ての半分をZEHにしたいと言うが、3階建て住居のZEH率を高めることは大きな課題の1つだ。
パナホームでも、3階建て住宅におけるZEH率は、現時点では、受注棟数の10%を切っている。「2階建てなどを含めたパナホーム全体では、16年度の受注棟数の17%がZEH。20年には全体で50%を超えたい。特に東京ではZEH率が低く、3階建てでのZEH率向上が重要になる」(平澤氏)というわけだ。
関連記事
- 更地になったシャープ旧本社に何を思う
大阪市阿倍野区のシャープ旧本社が更地の状態に。当初の計画では、8月31日までには解体工事が完了する予定であったが、工事は前倒しで進んでいるようだ。この光景に嘆きの声も。 - シャープ、PC事業に再参入か?
ホンハイ傘下のシャープがPC事業に再参入する可能性が出てきた。今夏、ホンハイとの共同開発でプロジェクター市場に再参入する予定で、今後はサーバやPCなどの取り扱いも検討するという。 - 鴻海からの“心遣い”を、シャープはどう受けとめたのか
台湾の鴻海によるシャープ買収決定後に開かれた共同会見において、鴻海・郭会長兼CEOはシャープのイノベーターとしての歴史をべた褒め。ところが、両社の経営に対する基本姿勢はまるで異なるものなのである。 - 富士通が島根でロボット生産に踏み切った理由
富士通のPC生産子会社の島根富士通が、ロボットの生産に乗り出した。PC製造で培ったノウハウなどを生かすことで、新たな事業として立ち上げ、今後のビジネス成長のドライバーにしたい考えだ。 - エプソン、国内プリンタ事業拡大へ大勝負
セイコーエプソンおよびエプソン販売が、大容量インクタンクを搭載した新製品を投入する。初の日本市場専用モデルということで、同社にとっては国内プリンタ事業の転換に大きな一歩を踏み出すものになるはずだ。 - 4年で1億台以上も消滅! 凋落するPC市場に未来はあるのか?
PC市場の縮小が止まらない。米ガートナーなどの調べによると、この4年でPC出荷台数は1億台以上も減少、市場規模は約3分の2になってしまった。このままこの市場は縮小の一途を辿るのだろうか……? - 売上高53億円を超えた! 「オフィスグリコ」が成功した3つの理由
皆さんの会社には「オフィスグリコ」はあるだろうか? 江崎グリコがこのサービスを本格展開し始めてから十数年のうちに売上高は17倍以上の53億円に。その成功の秘密に迫った。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.