メルシャンが独自技術をライバルに教える理由:日本ワイン 140年の真価(2/3 ページ)
ワインメーカー大手のメルシャンの特徴は「オープン性」だ。画期的な取り組みをしたかと思えば、そこで得た知見や技術などをほかのワイナリーにも惜しみなく伝える。なぜそうしたことをするのだろうか。
他のワイナリーにデータを毎週報告
甲州きいろ香とは、1300年前から栽培されている山梨固有のブドウ品種である甲州に隠されていた独特の柑橘系の香り成分のこと。甲州ワインのポテンシャルを引き出し、日本を代表するワインにするため、メルシャンは2000年に「甲州プロジェクト」を発足。04年には「甲州アロマプロジェクト」を立ち上げ、ワインの香りの世界的権威であるボルドー大学デュブルデュー研究室の富永敬俊博士との共同研究をスタートした。そこで発見したのが甲州きいろ香である。なお、きいろ香という名前の由来は富永博士が飼っていた黄色い鳥だという。
これはメルシャンにとって革新的な取り組みであり、他社との差別化を図る上でエポックメイキングな発見だった。しかし、同社はこれをすぐに情報開示するとともに、他のワイナリーにもノウハウや技術を伝えていったのである。
「甲州きいろ香のワインを05年に発売すると、とても注目を浴び、周囲のワイナリーからどんな造り方をしているのかという問い合わせが相次ぎました。メルシャンではかつてシュール・リー製法の技術をオープンにしたという経験があったので、今回も山梨県ワイン酒造組合を通じて造り方やノウハウなどをほぼ公開しました」と安蔵氏は振り返る。
例えば、きいろ香はブドウの収穫時期が重要で、完熟まで持っていくと香りがなくなってしまうというのがメルシャンの研究で分かっていたので、香り成分の数値データを他のワイナリーにも毎週報告していたという。そして、香り成分が最大になるタイミング、つまりメルシャンがブドウを収穫するタイミングもすべて公開した。
「毎週発表していたデータは、実はとてもコストがかかっていました。ただ、どの道メルシャンがワイン造りのために分析するのであれば、そのデータをほかのワイナリーにもまるごと提供して、香りの豊かな甲州ワインが山梨でもっと生まれれば、それで十分だと思ったのです」(安蔵氏)
実際、いくつかのワイナリーではメルシャンからの情報提供を基に、柑橘系の香りを生かした甲州ワインを造り始めた。例えば、蒼龍葡萄酒の「シトラスセント甲州」など、今ではそのタイプのワインが主力商品になっているそうだ。
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