メルシャンが独自技術をライバルに教える理由:日本ワイン 140年の真価(3/3 ページ)
ワインメーカー大手のメルシャンの特徴は「オープン性」だ。画期的な取り組みをしたかと思えば、そこで得た知見や技術などをほかのワイナリーにも惜しみなく伝える。なぜそうしたことをするのだろうか。
OBたちの教え
なぜメルシャンは、自社が時間やコスト、労力をかけてまで獲得した貴重なノウハウや技術などを、惜しむことなくライバルに提供できるのだろうか。
「勝沼においては、近隣のワイナリーが競争相手であるのは確かなのですが、日本ワインという観点で考えると、競合は輸入ワインで、近隣のワイナリーは協同する相手なのです。もちろん、ワインの品質面などで競争するのは大いにやるべきですが、間違っても日本のワイナリー同士でつぶし合うようなことはあってはなりません」と安蔵氏は力を込める。
もう1つ、安蔵氏が大切にしているのは、「地域貢献」というメルシャンのOBたちの教えだ。
メルシャンだけが成果を上げても、それは一過性にすぎない。例えば、シュール・リー製法を広めたときもそうだ。自社だけの取り組みで終わるのではなく、ほかのワイナリーもシュール・リー製法を導入して甲州の辛口ワインを造ることによって、それが地域のブランドとして定着する。これは山梨エリアにメリットがあるし、回りまわってメルシャンにもメリットをもたらすという考え方が土台にあった。そういった全体的な視点を持った企業は決して多くないだろうが、浅井氏をはじめ、そのような考えを持った人たちがメルシャンにはいたのである。
「もう30年くらい経ちますが、いまだに周囲のワイナリーから、あのときシュール・リー製法をすぐに公開してくれたのは非常にありがたかったと言われます。私はまだメルシャンに入社する前でしたが、先輩たちがそういうことをしてくれたのは本当に誇りに思いますね。そして先輩たちの薫陶を受けた我々はその理念を引き継いでいかないといけないのです」(安蔵氏)
自分だけが成功すればいい、一人勝ちできればいい。そうした心の貧しさは、日本ワインの伝統を受け継いできたメルシャンにはみじんもないのだろう。(次回に続く)
関連記事
- 急成長中の日本ワイン 礎を築いた先駆者たちの挑戦
日本で本格的なワイン造りが始まってから140年。いまや急成長を続ける「日本ワイン」はいかにして生まれ、発展してきたのだろうか。先人たちの苦闘と挑戦の歴史を追った。 - 星野リゾート「リゾナーレ八ヶ岳」の成長が止まらない理由
2001年、ホテル・旅館の運営会社として星野リゾートが手掛けた第1号案件が、山梨県にある「リゾナーレ八ヶ岳」だ。運営開始から3年後に黒字化、現在の売上高は40億円を超える。その好業績の裏側に迫った。 - 22年間で487倍に! 「安さ」だけではない、チリワイン輸入量急増のわけ
長らく首位を守り続けてきたフランスの牙城がついに崩れた。2015年のスティルワイン年間輸入数量でチリがフランスを抜きトップに躍り出たのだ。その急成長の理由とは――。 - 地ビールブームから一転、8年連続赤字で“地獄”を見たヤッホーブルーイング
現在、11年連続で増収増益、直近4年間の売り上げの伸びは前年比30〜40%増と、国内クラフトビール業界でダントツ1位に立つヤッホーブルーイング。しかしここまではいばらの道だった……。井手直行社長が自身の言葉で苦闘の日々を語る。 - 世界が注目する東北の小さな町のイチゴ革命
東日本大震災によって大きな被害があった宮城県山元町。この地で作られているイチゴが今、国内外から注目を集めている。「ミガキイチゴ」という商品ブランドを立ち上げた岩佐大輝さんの挑戦に迫る。 - 業績回復に導いた、オリオンビールの徹底したブランド戦略とは?
今年に入って初の海外拠点を設立するなど、今では沖縄以外でも手軽に飲めるようになったオリオンビール。売り上げを伸ばし続ける裏側には徹底的なブランド戦略があった。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.