造り手は増えるも……日本ワインの課題にどう立ち向かう?:日本ワイン 140年の真価(2/6 ページ)
活況を呈している日本ワイン。その一方で、これまでなかったような課題も出てきている。シャトー・メルシャンのチーフ・ワインメーカーを務める安蔵光弘氏に、日本のワイナリーが直面する課題や、これからの日本ワインのことなどをインタビューした。
――クローンの苗木を持ってきてから、どのくらいでワインとして出荷できるのですか?
苗木を植えて、最初にブドウの実がなるまで約3年。そのときはまだフルで収穫できないので、ある程度の量が収穫できるようになるのは5年後くらいです。5年後に収穫したブドウは赤ワインで2年間樽で熟成するので7年後。さらに瓶で1年間熟成すれば、実に苗を植えてから8年経ってようやく出荷できるようになるのです。息の長い話ですよね。
例えば、シャトー・メルシャンの商品に「マリコ・ヴィンヤード シラー」というものがあります。シラーは2003〜4年に「椀子ヴィンヤード」(上田市)にかなり植えて、06年に最初に収穫したブドウを私が仕込むという機会がありました。それを初めて飲んだのが12年で、「あのときのシラーがこういう風になったんだな」と感慨深いものがありました。
――先々を見据えながら新しい品種を植える計画を立てているわけですね。
いろいろな可能性があるものに取り組んでいるというのが正しいです。確かに椀子のシラーは16年に日本ワインコンクールで金賞を獲りましたし、海外でもシラー専門のコンクールで銀賞になるなど、非常に成功していますが、最初から確信を持って植えたわけではありません。
椀子のワイナリーは敷地が20ヘクタールあって、ブドウが16ヘクタール植えられています。最初は日本で栽培の多いメルローとシャルドネを中心に植えました。土壌が粘土なので、カベルネ・ソーヴィニヨンは難しく、次に選んだのがカベルネ・フランでした。もう1つ、今後に向けた違う品種を何にしようかと考えたとき、日本はだんだん温暖化になっているし、メルロー、シャルドネでない品種を試したいということでシラーを選んだのです。
理由はあります。ヨーロッパ、特にフランスの南部で、高級なワインを生み出している品種であるということと、南仏の品種なので、日本の温暖化に向いているのではということです。ただ、そんなに自信があったわけではなく、ワイナリー全体の5%程度植えただけです。結果的にシラーはうまくいったわけですが、当然うまくいかなかった品種もいくつもあるのです。
――毎年のように新しい品種にチャレンジしているのですか?
毎年というわけにはいかないので、畑を新しく作るたびにチャレンジしています。椀子が03年で、その次にできた新しい畑が15年の片丘地区(塩尻)ですから、12年間空いています。その間にも契約農家でいくつか品種を試すなど、いろいろとやってきましたが、今のところモノになったのは椀子のシラーなど3品種ほどです。面白い品種はいくつか出てきてはいますが。
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