造り手は増えるも……日本ワインの課題にどう立ち向かう?:日本ワイン 140年の真価(4/6 ページ)
活況を呈している日本ワイン。その一方で、これまでなかったような課題も出てきている。シャトー・メルシャンのチーフ・ワインメーカーを務める安蔵光弘氏に、日本のワイナリーが直面する課題や、これからの日本ワインのことなどをインタビューした。
日本ワインの課題
――今、日本ワインの課題は何でしょうか?
コストでしょうね。日本のワインはとにかくコストがかかります。以前、会社から派遣されてフランスのボルドーに4年間駐在していました。ボルドーはワイン造りにコストをかけない仕組みができています。
日本はワイン産業が盛り上がってきているとはいえ、まだワイナリーは300程度です。一方、フランスだとボルドーだけで数千あります。そうするとワイナリーで使う機械メーカーがたくさんあって価格も安いのです。
日本にはメーカーがほぼないため、醸造用の機械やプレス機は輸入に頼ることになります。輸入コストはかかるし、壊れたときのメンテナンスも大変です。そのほか、瓶詰めに関しても、フランスではトレーラーに瓶詰めの機械が搭載されていて、それが各ワイナリーを回ります。トレーラーが貯蔵タンクからワインを瓶詰めして、コルクだけ打ったものをワイナリーの倉庫に置いて帰るというスタイルが定着しているので、ボルドーでは瓶詰め機を持ってるワイナリーはほとんどありません。これはコスト的にかなり有利です。瓶詰め機だけで数千万円するわけですから。
シャトー・メルシャンは比較的生産量が大きいからいいですが、日本ではどんな小さなワイナリーでも瓶詰め機を持たないといけません。もしフランス式のやり方ができるのであれば、コストメリットは計り知れません。
あと、日本では当たり前のように各社にワインを分析する機械があり、分析担当者がいるのですが、海外のワイナリーには基本的に分析担当者はいません。ボルドーワインの産地であるメドックの中心はポイヤックという町で、そこに分析専門の会社が2社ほどあって、彼らの元に数百というワイナリーがサンプルデータを送って分析してもらうのです。これもコスト削減に役立っています。
日本でもお互いにコストを下げるような取り組みが必要です。例えば、他のワイナリーで機械が壊れたら自社のものを貸してあげる仕組みがあれば、予備を持つ必要がありません。同じ機械を買って、お互いどちらかがスペアを持つというやり方です。
日本はワイン産業がまだ小さいということもありますが、造るだけでコストがとてもかかるのです。日本とEU(ヨーロッパ連合)のEPA(経済連携協定)が始まって関税がゼロになると、海外ワインはさらに安く日本に入ってきます。日本ワインにとっては、より競争力を失うことになります。品質が優先なのはもちろんですが、コスト度外視でワインを造るのは限界があります。
――コストを協力して下げていこうという動きはあるのですか?
具体的にはまだないです。会社間の話になるので今はアイデアレベルです。私は本来かけるべきコストというのは、ワイナリー独自の品質のこだわりにかけるべきであって、瓶詰めなどは協同してコストが下がるのであれば、そのほうが良いのではと考えています。
大手ビールメーカーでも共同配送など今まででは考えられなかった取り組みをしています。ワイン業界はさらに規模が小さいので、そういうことを積極的にやっていかないといけないのかなと痛感しています。
――ほかに課題はありますか?
ブドウです。先ほど醸造用のブドウのクローンの話をしましたが、どれが日本の気候に合っているのかについて公的な機関で試験をしてほしいです。個々のワイナリーでやっていると効率が悪いし、知見が蓄積されません。同じ条件でさまざまなワイナリーがブドウを評価して、その結果を集めて判断する。そんなことができればいいのかなと思います。
後は苗木不足でしょう。醸造用のブドウを植える人がこの2〜3年で急激に増えたので、とても不足しています。新しく畑を広げたところに早く植えたいけれども、苗木がなかなか入ってこないので、何年もかかって植えているのが現状です。
苗木不足の背景には、各地に「ワイン特区」ができたことでワイン造りに参入しやすくなったことがあります。彼らは自分たちで畑を持ってブドウを植えるので、1本の木から収穫されるブドウの数が少ない垣根栽培が主流です。これは棚栽培の10倍くらいの苗木が必要なのです。
関連記事
- メルシャンが独自技術をライバルに教える理由
ワインメーカー大手のメルシャンの特徴は「オープン性」だ。画期的な取り組みをしたかと思えば、そこで得た知見や技術などをほかのワイナリーにも惜しみなく伝える。なぜそうしたことをするのだろうか。 - 急成長中の日本ワイン 礎を築いた先駆者たちの挑戦
日本で本格的なワイン造りが始まってから140年。いまや急成長を続ける「日本ワイン」はいかにして生まれ、発展してきたのだろうか。先人たちの苦闘と挑戦の歴史を追った。 - 星野リゾート「リゾナーレ八ヶ岳」の成長が止まらない理由
2001年、ホテル・旅館の運営会社として星野リゾートが手掛けた第1号案件が、山梨県にある「リゾナーレ八ヶ岳」だ。運営開始から3年後に黒字化、現在の売上高は40億円を超える。その好業績の裏側に迫った。 - 22年間で487倍に! 「安さ」だけではない、チリワイン輸入量急増のわけ
長らく首位を守り続けてきたフランスの牙城がついに崩れた。2015年のスティルワイン年間輸入数量でチリがフランスを抜きトップに躍り出たのだ。その急成長の理由とは――。 - 地ビールブームから一転、8年連続赤字で“地獄”を見たヤッホーブルーイング
現在、11年連続で増収増益、直近4年間の売り上げの伸びは前年比30〜40%増と、国内クラフトビール業界でダントツ1位に立つヤッホーブルーイング。しかしここまではいばらの道だった……。井手直行社長が自身の言葉で苦闘の日々を語る。 - 世界が注目する東北の小さな町のイチゴ革命
東日本大震災によって大きな被害があった宮城県山元町。この地で作られているイチゴが今、国内外から注目を集めている。「ミガキイチゴ」という商品ブランドを立ち上げた岩佐大輝さんの挑戦に迫る。 - 業績回復に導いた、オリオンビールの徹底したブランド戦略とは?
今年に入って初の海外拠点を設立するなど、今では沖縄以外でも手軽に飲めるようになったオリオンビール。売り上げを伸ばし続ける裏側には徹底的なブランド戦略があった。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.