造り手は増えるも……日本ワインの課題にどう立ち向かう?:日本ワイン 140年の真価(6/6 ページ)
活況を呈している日本ワイン。その一方で、これまでなかったような課題も出てきている。シャトー・メルシャンのチーフ・ワインメーカーを務める安蔵光弘氏に、日本のワイナリーが直面する課題や、これからの日本ワインのことなどをインタビューした。
ワインは食卓に普及しつつある
――日本でワインが文化としてもっと根付くためにはどうすればいいでしょうか?
文化と呼べるか分かりませんが、ワインというのはその土地の食材に合うと言います。山梨の人は甲州ワインで乾杯する条例があるなど、甲州を飲みながらいろいろな食事に合わせています。それがワインを飲む文化なのかなと思います。
輸入ワインを飲む場合でも、例えば、食事の中で「揚げものはこういう国のこういうブドウ品種に合うよね」など人々の間で定着してくると、ワインを飲む文化が育ってくるはずです。
多くの人はワインは難しいと言います。ワインメーカーとしても、その壁をどうにかして破っていかないといけません。ただし、そうは言っても、日本の食卓にずいぶんとワインが並ぶ機会は増えました。自分が入社した二十数年前、テレビドラマに出てくるお酒はビールで、ワインを飲んでいるシーンなんてほとんどなかったです。
象徴的に覚えているのが、東京で一人暮らしのすごくトレンディな人の部屋が出てきて、冷蔵庫開けると米国のビールが並んでいるのがカッコイイと思われていました。あのときから比べると、今ドラマを見ていてもワインを飲むシーンは多いですよね。どういう理由でこうなったかは分かりませんが、だんだんワインが日本人の食事の中に入ってきていると実感しています。
1時間、2時間だけでも情報をかじるだけでワインはとても面白くなるものです。実はそんなにワインは難しいことはないのですが、難しいというイメージを持っている人が多いのが現状です。ここをうまく超えられればなと思います。
――地道にやっていくしかないですね。
ワインはビールの市場に比べるとまだまだ小さい。何か取り組めばすぐに効果が表れるということはないでしょう。ただ、昔はもっと市場は小さくて、暗やみに石を投げるようなものでした。
この20年間でワインの普及は加速しています。ごく普通の食卓に赤ワインが出てきますし、今ではテレビドラマにも当たり前のように登場します。先ほど言いましたが、20年前のドラマで赤ワイン飲んでいたら、「何だこいつ、カッコつけやがって」と皆思ったでしょう。でも、今テレビで赤ワインを飲んでいるシーンを見てそんなことを思う人はいないはずです。そう考えると、ゆっくりではありますが、文化として定着してきています。
5年後には清酒と肩を並べると見ています。私はあえて日本酒と言いません。なぜなら日本ワインも日本のお酒ですから。でも、日本酒と言えば多くの人が清酒を思い浮かべるし、国技と言えば相撲を思い浮かべます。いくら野球が日本で盛んになっても国技とは言わない。それだけ長い間ついたイメージは大きいのです。
実際、清酒は日本のお酒の代名詞でした。戦後間もないころまで清酒はビールよりも数倍の消費量があったのです。ただ、(醸造アルコールを使って酒を3倍に薄める)3倍増醸清酒などの問題があって、次第に消費者が離れていきました。ワインも今は高級なイメージを持っている人が多いと思いますが、清酒のようにイメージが悪化する時代が来るかもしれません。そうならないように、業界全体が一致団結してさまざまな問題を乗り切らないといけないなと強く思います。
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