造り手の情熱は等しく 進化続ける日本ワインの未来:日本ワイン 140年の真価(1/2 ページ)
日本のワイン業界が活性化している。個人事業主など新規参入が相次ぐ一方で、大手メーカーも積極的な投資を行なっている。日本ワインの未来に向かって――。
初期コストは数千万円以上――。もしあなたがワイナリーを持ちたいと思ったとき、畑の取得から醸造所の建設、そこで使うさまざまな機器の購入など、ざっと見積もってもこのくらいの費用がかかるだろう。
今、日本のワイン業界は個人の新規参入が増えているが、中には脱サラしてまでワイン造りに人生を捧げる人も少なくない。先述したように莫大な投資が必要な上、決して誰もが大儲けするようなものでもない。休む暇もなく毎日畑に出て、手塩にかけて育てたブドウが台風などで全滅することも珍しくない。にもかかわらず、なぜそこまでワインは彼らを駆り立てるのだろうか。
長年勤めた会社を辞め、北海道に移住してワイン造りを始めたある生産者は「第2の人生、男のロマンですよ」と笑う。また、山梨でワイナリーを営む別の造り手は「ヨーロッパ産にも負けない高品質なワインを作りたい」と力を込める。
地域の新しい産業育成を掲げ、ワイン造りに参入した企業団体もある。東日本大震災からの復興支援を目的とする三菱商事復興支援財団は、15年に福島県郡山市に「ふくしま逢瀬ワイナリー」を建設。地元の農家にワイン用ブドウの栽培を指南するとともに、そのブドウを使って郡山産のワイン造りを進めている。目指すは果樹農業の6次産業化だ。18年にワインの初出荷を予定する。
大手各社も積極的に投資
個人事業者や異業種企業の動きに呼応するかのように、大手酒造メーカーも日本ワインの成長に期待を寄せ、積極的に事業への投資を行っている。
メルシャンは約6億円を投じて「シャトー・メルシャン 勝沼ワイナリー」のリニューアルに加え、新たに2つのワイナリー、2018年9月に「桔梗ヶ原ワイナリー」(塩尻市)、19年秋には「椀子ワイナリー」(上田市)を立ち上げる。これによって27年には同社の日本ワインの販売数量を現在の3.5万ケースから6.7万ケースとほぼ倍増する計画だ。自社管理農地も17年5月末の約40ヘクタールから、10年間で76ヘクタールに増やす。
「他のカテゴリーと比べても日本ワインは単価を高くできるバリューがある。今後、事業の屋台骨にしていきたい」とメルシャンの代野照幸社長は意気込む。
アサヒビールは17年3月、北海道・余市に4ヘクタールの農地を取得した。これを皮切りに今後は自社畑を計10ヘクタール以上に広げ、25年に同社全体の日本ワイン販売数量を2万ケース(現在約7000ケース)にしたいとする。
サッポロビールは中期経営計画においてワイン事業をビールに次ぐ第2の柱にすると宣言。自社で保有するワイナリー「安曇野池田ヴィンヤード」(長野県)にAI(人工知能)を導入し、ブドウの品質向上や体系化された栽培技術の確立などを目指している。
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