2018年、鉄道の営業力が試される:杉山淳一の「週刊鉄道経済」2018年新春特別編(2/5 ページ)
「企業として、需要があるところに供給する。そういう当たり前のことを、鉄道事業者はやってこなかったのではないか」。つい先日、ある第三セクター鉄道の社長さんに聞いた言葉だ。小林一三イズムが落ち着き、人口が減少傾向にある中で、鉄道の営業努力が試される。2018年は、そんな時代になると思う。
通勤ライナーという営業施策
明治5年(1872年)の鉄道開業以来、高度成長期に自家用車が普及するまで、鉄道は黙っていてももうかるビジネスだった。線路を敷けば駅に乗客は集まり、荷主は運びたいものを持ってくる。営業やマーケティングなど無用の業界だ。むしろ、先日の記事で、漫画『エンジニール 鉄道に挑んだ男たち』の作者、池田邦彦氏が語ったように「急増する乗客や荷物を、いかに停滞なく運ぶか」という、責任だけが存在した。各駅停車から特急まで、全て乗客の要求に対する回答としてサービスが提供されていた(関連記事)。
しかし、通勤ライナーは違う。座って通勤したいという需要を察知し、列車という商品を投入した。その快適性をアピールすれば、鉄道会社と地域の両方に対して価値の向上になる。通勤ライナーは、鉄道会社にとって斬新な「マーケティングによる産物」だ。
国鉄は1984年にホームライナーを運行し、好評のうちに運行路線と本数を増やしていった。そのヒントは大手私鉄の座席指定特急にあった。小田急ロマンスカーや西武鉄道レッドアロー、東武鉄道スペーシアのように、観光用に作られた特急列車のうち、朝夕の通勤時間帯にビジネスパーソンが利用しているものがある。それを見て、朝の観光地行き下り特急に使うために車庫からターミナルに回送する車両を、上りの通勤ライナーとした。夕方は観光地から帰ってきた車両を車庫に返すための回送列車で、帰宅用通勤ライナーとした。
その流れを受けて、有料座席特急を走らせない私鉄も通勤ライナーを走らせ始めた。京急電鉄は92年から「京急ウイング号」の運行を開始した。東武鉄道は2008年から東上線で「TJライナー」の運行を始めた。これを単なる「他社のまねをした増収施策」と見てはいけない。「指をくわえて無策でいれば、自社の路線と沿線価値が下がってしまう」という危機感の表れと考察すべきだ。西武鉄道が18年に有料座席列車「拝島ライナー」を新設する理由も理解できる。
その意味で、現在、平日の有料座席指定列車を運行しない東急電鉄は危機感を持つべきだ。東急沿線というブランドの強みがあるとはいえ、主要路線の田園都市線も東横線もラッシュ時は大混雑で、有料座席指定列車を走らせるゆとりがない。だから有料座席指定列車に変わる沿線価値を持っておきたい。他社の沿線価値が高まれば、東急沿線ブランドの価値は相対的に下がっていく。
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