ほうじ茶ブーム生んだマーケッター 秘訣は「お茶との恋愛」!?:三顧の礼で生産者を説得(2/3 ページ)
ほうじ茶ブームを仕掛けたペットボトル商品「加賀 棒ほうじ茶」。誕生の背景には地域に埋もれていた素材を掘り起こし地元企業を説得したマーケッターの「愛」があった。
職人気質な茶葉メーカー社長と意気投合
当時、石川県内の棒ほうじ茶の産地では茶葉がお土産用の名産品として売られていた。ただ「地元の人も存在は知っているが、あまり飲んでいないように見えた」(鶴谷さん)。全国流通しているペットボトルの商品もほとんど無かった。
石川県で棒ほうじ茶の茶葉を焙煎するメーカーの多くは小規模。その中で一定量の生産能力を持つ会社として鶴谷さんが白羽の矢を立てたのが1918年創業の老舗、油谷製茶(石川県宝達志水町)だった。
14年11月、同社を訪問して社長の油谷祐仙さんと初めて会った鶴谷さん。実は油谷さん、配合にこだわった自社の茶を百貨店などで手ずから入れて客に飲んでもらい、ファンを獲得する根っからの職人気質。作り手の顔の見える売り方にこだわるタイプで、ペットボトルに詰めて全国流通させる大メーカーの考え方とは逆に見えた。
油谷さんに「油谷製茶の茶葉をうちのペットボトル商品に使わせてほしい」とお願いした鶴谷さんだったが、「もともと加賀棒ほうじ茶はお土産向けや地元で消費される商品。ペットボトル飲料として全国流通させる話に対して向こうは正直、半信半疑に思っているようだった」(鶴谷さん)。そこで鶴谷さんの方から先手を打って「まず(試作品を作るので)味を見て、判断をお願いしたい」と頼み込んだ。
油谷さんの茶葉を持って帰った鶴谷さんは自社の開発チームと試作品を作り、15年2月にまた油谷さんの会社を訪問。試作品を飲んだ油谷さんは「想像よりおいしい。自分たちの茶葉の特徴、個性は出ている」と一定の評価を下した。
ただ、ここですぐに「では茶葉を供給してください」とは言わなかった鶴谷さん。試作品の開発を巡ってはコクがうまく出ない、殺菌すると香りが弱くなるといった課題が噴出していた。そこで加賀棒ほうじ茶の専門家である油谷さんに「もっとよくするにはどうしたらいいのか」と、いろいろな疑問をぶつけてみた。
職人気質な上に、ほうじ茶用のいろいろな茶葉を所持している油谷さんは「ここをこうするだけで味がだいぶ違う」などとすっかり味の工夫の話に没頭。「商売の話というより、すっかりお茶が好きな者同士の会話に変わってしまった」と鶴谷さんは振り返る。
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