雑誌発行に舞台公演も!? 焼酎業界の「名プロデューサー」走る:すべては焼酎ブーム再来のため(3/4 ページ)
焼酎業界で多くの名酒を生んだ「名プロデューサー」である卸会社の社長が焼酎への逆風の中でブーム復活を狙う。地道な商品開発に加え雑誌発行、舞台の制作まで挑戦。
焼酎卸の会社なのにグルメ雑誌発行
ブームが終わった理由について、中村さんは若者のお酒離れのほかに、08年のリーマンショックを機にデフレ傾向が進み、高級な飲食店にサラリーマンが行かなくなったことが大きいと指摘する。実際、中村さんの焼酎の主な納入先だった高級料亭への販売量は激減した。
14年にはNHKの連続テレビ小説でニッカウヰスキーをモデルにした「マッサン」が放映され話題に。ハイボール市場の盛り上がりもありウイスキーがブームになったことも、同じ蒸留酒である焼酎への打撃となった。
中村さんによると、九州に集中する焼酎の酒蔵の中でも構造変化が進んでいるという。一部の大手メーカーが生産を強化する一方、販促力の弱い中小の酒蔵がますますシェアを落としている。「私たちの焼酎はコンビニに置かれることがブランド力低下につながると考えているが、今や街の酒屋さんが無くなってお酒を買えるのは主にコンビニ。コンビニは棚が限られていて一部の銘柄しか置けない。東京で『黒霧島』や『いいちこ』といった少数の大手ブランドしか飲まれない、かつての状況に逆戻りしてしまった」と嘆く。
しかし、「バッターボックスに立ち続けてバットを振り続けるのが私の仕事」と諦めない中村さん。今までの地道な新銘柄開発に加えて“変化球”も放つように。その1つがグルメ雑誌「Open」の発行だ。08年から年2回、定価310円で地元のコンビニなどで販売、8000〜1万部ほどを売り上げている。
もともと「中村さんの扱う焼酎はどこの飲食店で飲めるのか」と知人によく聞かれていたのがきっかけ。「うちの焼酎を扱う店は個性的でとがっている場合が多い。焼酎とセットで広く紹介したいと思った」(中村さん)。
時には東北や熊本など被災地の店も紹介。単なるグルメ記事だけでなく料理人の人柄や食文化にも脚光を当てる。外部のライターや編集者などの力を借りつつ、中村さんや社員自身が記事を書くことも多い。少し遠回りなPR戦略にも見えるが、「雑誌で見た焼酎はどこで買えるのか」といった問い合わせも増えてきたという。
さらに最近、中村さんが焼酎復活のためプロデュースを始めたのが「舞台」。福岡で活動する「劇団エレガント」による公演で、タイトルは「挽回博多メシ 居酒屋編」。福岡に実在する人気居酒屋「磯ぎよし」の主人をモデルに、一時は人気が出ずに店をたたんだ料理人が再起して修行し直し、成功をつかむストーリーという。
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