南極で冒険家に突き付けられた「極限の選択」とは 阿部雅龍さんに直撃:何を捨て何をつかんだのか(2/4 ページ)
南極点到達に成功した冒険家・阿部雅龍さんに直撃。豪雪などの荒天に阻まれる中、「無補給」という当初方針を転換した決断に迫る。
「自分がすべきこと見失うな」
――阿部さんがアマゾン川のいかだ下りに挑戦した時は、マラリアにかかって生死の境をさまようなど、冒険にはトラブルがつきものです。今回の異常な豪雪はどう感じましたか。
阿部: とにかく理不尽だと思いましたよ。自然とはそういうものですが、歩いている最中も「何で今年それがぶち当たるんだよ」という気持ちでした。僕だけでなく他の外国の冒険家もみんなそう思っていたでしょう。それぞれ人生をかけていたのだから。それでも真っすぐ歩いて行かなくてはいけない、と思ったのです。
――今回の遠征では前半の悪天候で行程が遅れて食料の消費が激しく、当初目指していた「無補給」の方針を転換して食料補給を受けました。
阿部: 出発から31日目、ルートのチェックポイントに食料の備蓄庫があり、そこから補給を受けました。実はこのポイントに着く3日くらい前に、ベースキャンプから「食料を補給してはどうか」と打診がありました。
食料が無くなるということは自己責任です。クレバスに落ちるといった(突発的な)場合にはレスキューが要ります。でも、食料が切れるのはあくまで自分のマネジメントのミスなのです。補給の提案を受けた後はそのことばかり考えました。ストレスとプレッシャーで、疲れているのに不眠症になるほどでした。結局、補給を受ける前日に決断しました。
350キロ地点であるチェックポイントまでに31日間かかりましたが、このあたりで降雪が止まり、残りの550キロは22日間で踏破しました。積雪さえなければ予定通り無補給でいけたのでしょうが、天候に阻まれましたね。
――なぜこのような判断を下したのでしょうか。
阿部: 無補給は僕のやりたかったことで、自分を押し通すこともできた。ただ、チェックポイント直前であれだけ降っていたドカ雪がまた来たら、行けなかったでしょう。あの時は毎日雪が降っていたので、もう一度降らないという保証は無かったのです。
遠征中に僕は日記にこう記しています。「この雪が続くなら補給は絶対必要 頭の中で考える 絶対にやるべきは南極点」「無補給でやるのはただのイコジでしかない」。
無補給達成への未練や意地で、自分がすべきことを見失ってはいけないと思いました。補給をもらわなくても行ける状況に結果的にはなりましたが、たとえそれで行けたとしても無茶な判断でしかない。
関連記事
- 冒険家・阿部雅龍さん、南極点に到達 日本人未踏ルート
冒険家・阿部雅龍さんが南極点に到達した。日本人未踏の「メスナールート」を踏破した。 - 登山家・栗城史多さんの死の意味を問う 冒険家の阿部雅龍さん
登山家・栗城史多さんの死に冒険家・阿部雅龍さんがざらつく思いを語った。周囲の期待に応え過ぎたかもしれないとみる一方、「責任はあくまで彼自身にある」と話す。 - 南極に挑む冒険家・阿部雅龍さん 命がけで「独りの自由」を貫く訳
冒険家・阿部雅龍さんが11月、南極の単独踏破に挑む。時には営業マン張りのPR力やスピーチで約1250万円の費用集めに奔走。資金集めも冒険もあくまで行い1人で自由と責任を抱える。 - 胸の大きい女性が胸を張って着られる服を 27歳女性起業家の挑戦
27歳女性が起業した胸の大きな女性向けの洋服ブランドが急成長している。ユーザーの要望をきめ細かく商品に反映、Twitter上で同じ悩みを持つ女性の共感を呼びヒットした。 - 余命1年を宣告され単身渡米 がんを乗り越え「2度の世界女王」に輝いたバックギャモン選手
世界の競技人口3億人ともいわれている人気ゲーム「バックギャモン」で2度の世界チャンピオンに輝いた矢澤亜希子さん(38歳)。子宮体がんで余命1年と宣告されてから「世界」を獲るまでのサクセスストーリー。 - 「諦めなければ夢はかなう」 豊ノ島との友情が生んだ相撲雑誌
相撲雑誌「TSUNA」が人気だ。編集長は友人の豊ノ島の雄姿に突き動かされ創刊を決めた。独学で「相撲トリビア」を詰め込んだ入門誌を発行し続けた。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.