南極で冒険家に突き付けられた「極限の選択」とは 阿部雅龍さんに直撃:何を捨て何をつかんだのか(3/4 ページ)
南極点到達に成功した冒険家・阿部雅龍さんに直撃。豪雪などの荒天に阻まれる中、「無補給」という当初方針を転換した決断に迫る。
トラブルで「成長できた」
――阿部さんは日記に「飛行機チャーターのため 白瀬の人生が浮かぶ 後数日で決断せねば」とも記しています。「白瀬」とは、同じ秋田出身で初めて南極に挑んだ日本人冒険家、白瀬矗(のぶ)さんですね。阿部さんは以前から、白瀬さんが果たせなかった前人未到の「白瀬ルート」踏破を冒険の目標に掲げています。
阿部: 白瀬さんは帰国後、借金まみれになってしまいました。私も今回のルートで最悪、(途中で)食料が尽きたら飛行機にピックアップしてもらわなくてはいけなかった。(飛行機チャーターの特別料金のために)何千万円と言う借金を負わなくてはいけなくなったでしょう。白瀬ルート達成という夢自体がついえてしまう。だから確実に南極点に行ける方法を取りました。
実は補給を受けたチェックポイントは、飛行機のランディングポイントでもありました。飛行機がガソリンを補給する場所で、(道半ばのピックアップとは違って)無料でリタイヤして飛行機に乗り帰ることもできました。疲れ果てて、気持ちが折れていればリタイヤしていたと思います。
ただ、まだ可能性があるのに諦めるのも、自分から逃げる行為だと思いました。確実に踏破が無理なら辞めた方がいいが、まだチャンスがあるのに辞めたらこの瞬間を一生後悔する。南極に来てまでそんな思いをしたくない。そこで、リスクは高まるけれども南極点に到達できる可能性が最も高い道を選んだのです。
今回の遠征は前半が食料の量とペース配分、後半はタイムリミットの問題が突きつけられていた旅でもありました。僕が南極点に到達したのは1月16日(現地時間)ですが、南極のベースキャンプは19日で閉まるのです。食料を補給しようがしまいが、(それまでに)着かないと強制リタイヤです。実際、僕より後ろを歩いていた冒険家はリタイヤしてしまいました。
――無補給という“賭け”でもなく、リタイヤでもない。心身ともに極限の中で下した今回の決断とその結果についてどう振り返りますか。
阿部: 冷静な判断だったと思います。その時々でベストな判断ができた。無補給でないことに全く後悔はありません。無補給に固執してしまうと、自分が本当にやりたいことを見失ってしまう。最初に言ったこととは食い違ってしまったけれど、「わがまま」を貫けたと思います。
そして、結果的にですがこのトラブルがあって良かったと思います。補給やタイムリミットを通じた自分との闘いの中で成長できた。次に挑む白瀬ルートの際、このドカ雪が(初めて)来たら絶対に駄目だったでしょう。(遠征後半の)例年より寒い寒波も今回経験できた。結果的に次につながったと思います。
冒険家をサポートする会社のスタッフからも「この条件で良くやった」と高い評価をもらいました。彼らに白瀬ルート達成の夢を語り、「また戻ってくるから」と話しました。
南極で誰もやったことのないルートの遠征を手助けするのは、彼らにとってもリスクなのです。冒険家がある程度実力を証明することで、彼らも今まで以上に本腰で応援してくれるもの。冒険は実力とお金だけあってもできません。そこに「人」がそろわないと。
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