トヨタ社長が「終身雇用は難しい」と言っても、やっぱり「終身雇用」が必要な理由:専門家のイロメガネ(2/4 ページ)
トヨタ自動車豊田章男社長の「終身雇用は難しい」発言が大きな波紋を呼んでいる。企業側の厳しい環境はわかるが、終身雇用の維持は日本企業の責任ではないのか? そう考える4つの理由をまとめる。
「就職」ではなく「就社」の文化
第1に、これまで多くの日本企業が転職しても社外で通用するようなキャリアを形成できる働き方を社員にさせてこなかったことです。
古くから日本の採用慣習は「新卒一括採用」でした。しかも「総合職300名募集」というような求人の仕方で、大学の何学部で何を学んできたのかもさほど重視されていません。
法学部を出たから法務部に配属されるとか経済学部を出たから財務部に配属されるとか、といったこともなく、会社から辞令が出された職場に配属されます。「就職」よりも「就社」であり、配属されるまでどのような仕事をするのか分からないのが実情です。
入社後も社内の複数の部署を転勤や配置換えにより経験し、ゼネラリストを目指すのが一般的なキャリアプランでした。社員も企業の意向に沿い、辞令1枚で全国へと転勤をいとわない働き方をしてきました。
そのような働き方ができたのは、まさに「終身雇用」という不文律があったからです。「終身雇用」を前提に、社内人脈なども含め、定年まで勤め上げるためにキャリアを形成してきたのが従来の日本企業の社員でした。
逆にいえば、新卒で入社した会社の外に出てしまったらそれまでのキャリアが消えてしまうリスクもあり、同等の条件で他社へ転職することも難しいことを意味します。
欧米のように「経理のプロ」「人事のプロ」といった専門特化型のキャリアを形成する働き方であれば、どの企業に勤めるにしても原則として自分の客観的な労働市場における価値は変わりません。
日本企業の社員は個人にひもづくスキルよりも、場合によっては私生活や自己の希望を犠牲にしても、会社の配属に従い、一社専属の「就社」を前提として働いてきました。そこから「終身雇用」のはしごを会社側が一方的に外すのは、やはり残酷ではないかということです。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- わたし、定時で帰れるの? 残業を強制できるラインはどこか
ドラマ『わたし、定時で帰ります。』が話題になる背景には、多くの人にとって定時で帰れず残業が当たり前の状況があります。本来、残業をせずに定時で帰っていいラインとはどこにあるのでしょうか? - “普通の会社員”には無縁!? 蔓延する「副業万歳論」のワナ
新進気鋭の雇用ジャーナリスト海老原嗣生が、働き方改革の実相を斬る。今回は「兼業・副業・ダブルワーク(Wワーク)推進」の陥穽を指摘していく。 - 豊田章男自工会新会長吠える!
「この事実をしっかり報道してください」――。2018年5月に日本自動車工業会の会長に就任したトヨタ自動車の豊田章男社長が、最重要課題として強く訴えたのが自動車関連諸税の問題だ。 - 完敗としか言いようがない日産の決算
ズタズタの決算内容だった日産。一つの要因は、北米で販売促進費用(インセンティブ)をつぎ込んで売り上げを伸ばそうとしたことにあるのではないか。対策として、22年にはモデルラインアップの半数を電動化車両にするというがバッテリー供給は大丈夫か。20車種の新型を出すというのも、短期間で作られる新車は大丈夫なのか? - マツダの決算 またもや下がった利益率の理由
売上高は増収だったが利益面の落ち込みが激しいマツダの決算。北米と中国市場の不振が響いた結果だ。今後に向けて、販売店改革とパワートレーンの刷新を進めるが、これが北米市場で実を結ぶかどうかが焦点となる。