副業解禁の盲点 経験者が直面した「社外活動と退職は裏切り」という現実:専門家のイロメガネ(3/4 ページ)
終身雇用が終わりを告げるとともに、副業や兼業を容認する動きが目立ってきています。企業はそのための制度を整えていますが、副業や兼業に対する同僚の見方というソフト面は、まだ遅れています。実例と共に、副業解禁の見えない壁を確認していきましょう。
「会社の外は敵ばかり」のメンタリティが副業の阻害要因
Nさん、Tさんの話を聞いていると、会社員の多くが自社の外をあたかも「敵」とみなしていることがうかがえます。
NさんもTさんも、会社員時代の社外活動での経験が、キャリアチェンジに一歩踏み出す力となっています。社外活動を通じて、自分のスキルが市場価値を持っていることが確認でき、実際に社外での人脈を通じて仕事を得ることもできました。
では、副業が解禁されたら、Tさんに助言をした先輩や、送別会をしなかった同僚たちも社外に飛び出すのでしょうか?
そうは思えません。副業・兼業に飛び出すネックは、制度だけではなく、長年にわたって形成された「会社の内と外」に関する認識だからです。
Nさんの話では、当時の多くの社員が、「副業」として禁止されていなくても、社外の交流会や勉強会に参加しようとしなかったといいます。その理由は「自社のノウハウが流出する」というものでした。
Tさんは、社外の場に出て最も驚いたのは「人がみんな優しい」ことだったと言います。「自社の業績が悪化しているのは他社との競争が激化したせいだ。他社には負けてはいけない」と常に敵愾心をあおられていたのに、敵ばかりと思っていた外の世界は、全くその逆だったことにショックを受けたといいます。
恐怖心を助長する退職者への「敵」扱い
こうした「会社内は味方、外は敵」の概念を常に植え付けられていれば、勤続年数が長くなればなるほど、外に対する抵抗感や恐怖心は自ずと高まります。さらに恐怖心を煽るのは、自分たちの元同僚でさえ、いったん退職すると「敵」として扱われることが多いことです。
私もそういった経験があります。会社員から独立した際、実績のない自分に研修講師の仕事を依頼していただいたのは、新卒時に入社した大手通信会社でした。
しかし、ある段階で「この会社を辞めた人間に任せるのはいかがなものか」と社内で反対の声があがり、仕事も立ち消えになりかけました。結局、元社員という経歴は明らかにしないことで実施に至ったのですが、途中退社した人間をまるで「裏切者」とみなす考えが根強くあることにショックを覚えました。
ある銀行の出身者からは、辞表を出してから退職までの間、上司が一言も口をきいてくれなくなったという話も聞きました。辞める人間は「裏切者」とみなす典型的な事例でしょう。
こうした退職者の例を見聞きしていると、社員は会社を辞めた後の生活に恐れを募らせ、結果として今の会社にしがみつくようになるのです。そんな状態で早期退職制度が実施されれば、会社にとっても社員にとっても不幸なことです。
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