「3年で30万人」は絵空事か 就職氷河期世代の雇用対策に欠けた、深刻な視点:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(3/4 ページ)
兵庫県宝塚市が実施した、就職氷河期世代対象の正規職員採用では、1635人が受験して4人が合格した。政府はこの世代を「3年で30万人」正規雇用することを掲げるが、どうやってそんなにも多くの人を救えるのか。最大の問題は低収入による“リソースの欠損”だ。
3人に1人が相対的貧困 「低収入」が最大の問題
そもそも、氷河期世代の最大の問題は「低収入」です。非正規雇用が多いため賃金が低く、他の年代と比べて相対的貧困率が高い。具体的には、若年非正規労働者(25〜34歳)の相対的貧困率が23.3%と5人に1人であるのに対し、氷河期世代の男性(35〜44歳)では3人に1人と多くなります(31.5%)。若年層の7割で「親」が家計維持者であるのに対し、この年齢層は「自分」が“一家の主”になるケースが多いため世帯収入が減り、貧困率が高くなってしまうのです(労働政策研究・研修機構「壮年非正規労働者の仕事と生活に関する研究」)。
非正規であるがゆえに、次の会社に移っていく合間も、常に経済的不安が付きまといます。
正社員は雇用保険・健康保険・厚生年金の加入率が99%超となっていますが、非正規では雇用保険65.2%、健康保険52.8%、厚生年金51.0%(関連リンク:日本生命)。失業期間中の生活保障がされていません。
その結果、何が起こっているか? 正社員になるための資格取得や、少しでも賃金の高い非正規の専門職になるために自己啓発する「カネ」というリソースの欠損です。
実際、雇用保険に未加入あるいは受給経験がない非正規の人は、加入あるいは受給経験のある非正規よりも正規雇用への移行確率が低くなっていることが全国調査で確かめられています(「非正規雇用から正規雇用への移行要因 ―『全国就業実態パネル調査』を用いた分析―」高橋勇介)。
もちろんこの調査は、正規雇用に転職できた人の要因を分析しただけで、「転職するのに自己啓発に取り組んだか?」「転職するのに資格を取得するなどしたか?」を直接的に聞いたものではありません。
しかしながら、自己啓発に「カネ」は必要不可欠ですし、生活の基盤も担保されない状況で、どうやって「再チャレンジ」に投資すればいいのでしょうか? 役場や企業が公募する狭き門を突破する努力をしたくても、努力する環境にないのが氷河期世代問題の本質なのです。
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