「これさぁ、悪いんだけど、捨ててくれる?」――『ジャンプ』伝説の編集長が、数億円を費やした『ドラゴンボールのゲーム事業』を容赦なく“ボツ”にした真相:マシリトが行く!【中編】(2/7 ページ)
鳥山明氏の『DRAGON BALL(ドラゴンボール)』の担当編集者だったマシリトこと鳥嶋和彦氏はかつて、同作のビデオゲームを開発していたバンダイに対して、数億円の予算を投じたゲーム開発をいったん中止させた。それはいったいなぜなのか。そしてそのとき、ゲーム会社と原作元の間にはどのような考え方の違いがあったのか。“ボツ”にした経緯と真相をお届けする。
10人くらいに取り囲まれた“修羅場”
内山: 編集部の真ん中にテーブルがあって、鵜之澤と僕がそこに座ったんですけど、目の前が鳥嶋さんですよ。それで鳥嶋さんの周りに、そのフロアにいる編集長・副編集長が10人ぐらい、ズラーッと並んで。まるで「逃がさねぇぞ」と取り囲むように(笑)。
それで「何を作っているのか説明しろ」というので、企画書をめくったんですけど、鳥嶋さんは読まないんですね。映像も持ってきてたんですけど、見もしない。目の前に企画書をお出しして、「今から」って言おうとしたらですね、「これさぁ、悪いんだけど、捨ててくれる」って鵜之澤に言うんですよ。
つまり「今作ってる君のゲームはもう、ここでプロジェクト中止だから」と。開発費がいくらかかってるだとか、どのぐらい苦労しただとか、これがいかに売れるかとか、そんなことは関係ない。
「そもそもキャラクターを全然分かってないよね、この企画」って。企画書も映像も見ていないんですよ。
とにかく周りにほかの編集長、副編集長がズラーッといる状態で、それが当時の鳥嶋さんのジャッジなんですよ。一瞬の。「あぁ、これがマンガで見た“ボツ”なんだ」って。でもホントの“ボツ”はけっこうキツいねって。そんな感じでしたね。よく覚えています。
鳥嶋氏: えーとね、内山さんと僕の記憶が微妙に違っているんで言いますけど、映像は見ました。企画書のほうは、バンダイの企画書は中身がないので見る意味がない(笑)。
映像を見てすぐ「これはダメだ」と思いました。なぜかというと、簡単です。監修というのは一目で分かるんです。キャラクターが似てるか、似てないか。
子どもは原作のファンですから、原作のキャラクターと違っていれば、それはニセモノなんですよ。編集部としては、ニセモノをOKして出させるわけにはいかないので。だから見た瞬間、「これはニセモノだ」と。ダメだと。
スライドにも書いてありますけど、「数億円かかっています」という言い訳が、たぶん鵜之澤さんから、その場で出たと思うんですね。そのときに僕は、鳥山明さんの年収を説明しまして。当時、2桁億円の年収があったんじゃないかな。「そういう人に数億円で“ニセモノを出させてください”と、僕が言えると思いますか?」って。だから「悪いけど、これはゴミ箱に捨ててください」と。そう言ったんじゃないかと思うんですね。
鵜之澤氏: 僕も覚えてます。さっきお話ししたように、『ONE PIECE』のゲームをやらせてもらっていて、それがすごく売れていたんですよ。「いいよね、『ONE PIECE』で儲(もう)かっているんだから。捨ててくれる?」と(笑)。
内山氏: プロデューサーの端くれとしてはもう、大変ですよ。開発チームが何十人といますし、「ここまでかかっている開発費を、バンダイの中でどうするの?」というのもあるんですけど。
でも「ダメ」という判断が出たので、とにかく「次はこうしますから。ご指摘いただいたことをこういうふうに変えて、本気でぶつかりますから」というような感じで食らいつきまして。鵜之澤と2人で。それで何とか次のチャンスをくださいとお願いして、「持ってこれるものができたら、見ないわけじゃないから持ってきて」と言っていただいて。その結果、次にお持ちしたのが、3カ月後ぐらいだったと思います。
何でキャラがダメだと言われたのか、どうしてこの企画が『ドラゴンボール』として正しくないとおっしゃられたのか、鳥嶋さんから懇切丁寧に説明してはもらえませんでしたから。「悪いけど、捨ててくれる」だけしか言われていないので。
そこから必死になって読み解いて、開発チームとかなり話をしまして。当然、発売日も延びるわ、開発費は増えるわ、そもそも開発チームに「ごめんなさい」の嵐だし。でも、ここで止めるわけにはいかないので、次にいくためにはどういう手を踏もうかと、まぁ大変でしたね。あと鵜之澤には、絞った雑巾(ぞうきん)から水が出ないぐらい絞られまして(笑)。そのときは大変でした。
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