「これさぁ、悪いんだけど、捨ててくれる?」――『ジャンプ』伝説の編集長が、数億円を費やした『ドラゴンボールのゲーム事業』を容赦なく“ボツ”にした真相:マシリトが行く!【中編】(3/7 ページ)
鳥山明氏の『DRAGON BALL(ドラゴンボール)』の担当編集者だったマシリトこと鳥嶋和彦氏はかつて、同作のビデオゲームを開発していたバンダイに対して、数億円の予算を投じたゲーム開発をいったん中止させた。それはいったいなぜなのか。そしてそのとき、ゲーム会社と原作元の間にはどのような考え方の違いがあったのか。“ボツ”にした経緯と真相をお届けする。
原作者に知らせていないものは「海賊版」
鵜之澤氏: 確かにね、内山は『北斗の拳』が当たって、調子こいてた時期なんだよね(笑)。でも一発当たるとパチンコじゃないけど、「確変(確率変動、一定の条件で大当たりになると、次回以降の大当たり確率が上昇すること)」が入ったみたいにやたらと当たりが出始めるんですよ。
部下をお持ちの方は分かると思うんですけど、一発当てたヤツは次も当たるし、もっとデカい当たりを取ってきますよ。ただ、そうやって5本ぐらい続けるとですね、“当たり”のエネルギーが消えて普通の人に戻っちゃうんです。でもうまくやると内山みたいに、取締役になれるかもしれない。それぐらい、当たりが来たときに自信を持って突き進むというのも、けっこう大事なのかなと思います。
鳥嶋氏: ちょっと思い出したんだけど、「『北斗の拳』が“懐かしのキャラクター”で当たったんで、『ドラゴンボール』も出そう」というところに、バンダイのダメさ加減が出てるよね(会場爆笑)。
どういうことかというと、『ドラゴンボール』はそのとき、TVでも放送していないしマンガの連載もやっていない、つまり“終わったキャラクター”なんだから「バンダイが出してあげる」という視点があって。とりあえず作れば売れるからオッケーだよね、というところで持ってきたというのがあるんですよ。
その結果、キャラクターの作り込みだとか、原作の読み込みだとか、いろんな研究がなされていないのが一目で分かった。
あとね、原作の版元である『ジャンプ』の編集部に話をしていないというのは、本来あり得ないんですよ。編集部がOKしていないということは、原作者とコミュニケーションが取れていない段階で出そうとしているってことですから。編集部的にははっきり言うと、「海賊版」なんだよね。「海賊版を出させてください」と言われて、OKするはずがないですから。
内山氏: あの、海賊版の話は、この後でまた出てきますので(笑)。
発売元はバンダイでも、子どもからクレームが来るのは『ジャンプ』編集部
鵜之澤氏: 簡単に言うと、『北斗の拳』のゲームは初代PS(プレイステーション)なんですよ。だから開発費が抑えめにできている。ところが『ドラゴンボールZ』はPS2だったので。
PS2になると開発費がいきなり高くなって、5億円じゃ済まないっていう。でもバンダイで5億円の開発費なんて、そのころは聞いたことがなかったので。これは国内だけじゃペイできないですよね。じゃあ海外でも売れる作品は何だろうかというと、『ドラゴンボール』は海外でも人気があるんです。フランスなどでもTVでやっていたりして。そういう話を聞いていたので、じゃあ『ドラゴンボール』をやろうかなと。
それで開発会社はディンプス(大阪府豊中市)さんっていう、カプコンで『ストリートファイター』シリーズを作ったり、SNKで『餓狼伝説』を作ったりしていた人たちがいる、もともと格闘ゲームのうまいところだったので。そういう会社に本気でお願いすれば、ゲームとしてはいけるという自信があったんですけど。
ただバンダイがアニメのスポンサーになるときは、あくまで広告代理店にお金を払うだけなんですよ。そうすると、『ドラゴンボール』だと窓口が東映アニメーションさんなので、東映アニメのライセンス部門が監修をすると。
でもゲームって、アニメと同じでキャラクターが動いて、声まで出るわけじゃないですか。そうするとね、監修で全てを見てもらうのって、けっこう大変なんですよね。それでもやらなきゃいけなかったのは、このときから後はちゃんとやっているんですけど、東映アニメさんに話を持っていくときは、同時に『ジャンプ』編集部さんにも同じものを持っていく。そして同じ説明をして了解してもらうというやり方しかない。改めてそれをやったことで、一応、発売のお許しをなんとかいただきましたけど。
内山氏: そういうわけで、今スライドに映っているように、ゲームについての話し合いを、かなり真剣にやりました。「キャラクターが似ていない」のはなぜだとなったときに、もちろん3DCGモデルが似ている、似ていないというのもあるんですけど、アニメーションによる動きだったり、シルエットとしてちゃんとキャラクターを語れるか、みたいなところを開発チームとかなり詰めまして。
作り直しに近い形で造形を変えて。それも顔が似ていればいいというのではなくて、キャラクターとしてちゃんと立つ瀬があるかどうか。そういったものを作って、いくつかのシーンの映像を、改めて鳥嶋さんのところにお持ちしました。
そのときも「ここがダメだ」「あそこがダメだ」みたいに言われるんだろうなと、身を縮めてお待ちしていたんですが。ところが実際は、ご覧いただいてすぐに「良くなったんじゃない」「こういうことだよ、僕が言ってたのは」とですね、一瞬でご承認をいただけまして。
そのときに思ったのは、こんなふうに一瞬で承認が出たというのは、CGモデルが似ているかとかそういうことだけではなかったんだと。ここに至るまでに開発チームや僕らが『ドラゴンボール』という作品にちゃんと向き合って、悟空やベジータに向き合って、作ったものがちゃんと血が通ったものとして持ってくることができたのかとか、そういうところを見られていたんではないかと。その真剣さと、それをアウトプットまで持ってくる覚悟を、鳥嶋さんはご覧になっていたのかなと思っているんです。
16年前に僕はそういうふうに思ったんですが、それが本当にそうだったのかを聞くのは、今日が初めてなんです(笑)。
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