同一労働同一賃金がまだまだ日本で浸透しない、これだけの理由:欧米のようにはいかない(2/4 ページ)
2020年から開始する「同一労働同一賃金」。期待を集める一方で、“真”の意味で浸透していくにはまだまだハードルがありそうだ。どういったところに課題があるのか。しゅふJOB総研所長を務め、労働問題に詳しい川上敬太郎氏が斬る
欧米の「同一労働同一賃金」とは異なる
また、同一労働同一賃金が浸透しているとよく言われる欧米と日本とでは、少し事情が違う面があることも把握しておく必要があります。欧米における同一労働同一賃金は、性別や人種など、自分の意思で選択する余地がないような属性上の差別をなくすための規制だといわれています。日本のように、雇用形態の違いによる格差解消を目的とした観点とはニュアンスが異なります。
欧米では職務ごとに企業横断的な賃金相場が形成されています。一方、日本では企業ごとに賃金相場が分断されているのが実情です。同一労働同一賃金を導入できたとしても各企業内でしか適用されず、転職後は同じ職務なのに賃金が変わる、ということが起こりえます。この違いを端的に表すのが、「職能」と「職務」です。日本の人事制度は、職能型だと言われます。
職能とは、その職務をやり遂げる能力のことです。仕事内容ではなく、その人の有している能力を評価しようとするのが職能型の考え方です。日本の企業は、その人が難しい仕事に携わっていようが、簡単な仕事に携わっていようが、仕事内容ではなくその人の能力に対して給与を払います。典型例は年功賃金で、これは「勤続年数が長ければ総合的な能力も比例して上昇するだろう」という考え方にもとづいています。
また、日本の労働組合の基本は企業別組合です。職能型でありながら、各企業に独立して労働組合が機能している形です。そのため、各企業限定の評価制度が個別に発展することになり、企業横断的な労働市場が形成されにくいと言えます。
それに対し、欧米は職務型だとよく言われます。職務とは仕事の内容そのものです。職務型の場合、企業はその人の有する能力ではなく、従事する仕事内容に対して給与を払います。また、欧米の労働組合は企業の垣根を越えて、産業や職業別で横断的に機能しています。そのため、同じ職務であればどの企業でも統一的な評価制度が適用され、企業横断的な労働市場が形成されやすいと言えます。
以上から、日本で同一労働同一賃金を導入して機能させるのであれば、企業横断的な労働市場をどう形成するか、といった「構造そのもの」にメスを入れる必要が出てきます。大変なことですが、日本の雇用労働システムを劇的に変える覚悟を持って取り組まなければ、本当の意味での同一労働同一賃金導入は実現できません。
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