NISA制度が税制改正で超変化 次の争点は「株とFX」の損益通算?:古田拓也「今更聞けない金融ビジネスの基礎」(2/3 ページ)
自民党がまとめた2020年度税制改正大綱では、NISA周りの制度が大きく変わることが明らかとなった。今回は、NISAをはじめとした金融商品取引をめぐる制度改正が、資産運用にどのような影響をもたらすかを確認していこう。
そもそもNISAはなぜ導入されたのか
NISA改正をめぐる報道について、当初は「富裕層優遇である」という趣旨の論調が多かったにも関わらず、自民党がまとめた大綱では、結局「富裕層」という単語は一切使われなかった。これは一体なぜだろうか。
それは、NISA制度がそもそも富裕層優遇の証券税制を是正するために導入された措置であるからだ。そのルーツは小泉政権下に決議された証券税制の改正だ。これにより、03年から13年まで、株の譲渡益にかかる税金は10%に抑えられていた。しかし、10%という税率は、給与にかかる所得税でいえば、年収195万円〜330万円のレンジに掛かる税率である。
軽減税率では、株式の所得がたとえ年間1億円だったとしても、給与所得者と比較すれば相当有利な税率となるという欠陥があった。そこで、14年に軽減税率が廃止され、逆進性を緩和するために同年導入された制度がNISA制度なのである。
もともと富裕層対策で導入された制度を富裕層優遇と言い切ってしまうのは本末転倒だ。そのため、事前観測でよく言及された「富裕層」というワードの使用を控えたのかもしれない。
では実際のところ、NISAは富裕層がメインで利用しているのだろうか。
NISA利用者像は「年収500万円未満の若年層」
読者の中にも、NISA口座は資産に余裕がある高齢者が多く利用しており、若年層の資産形成に寄与していないと考える方もいるだろう。しかし、最近では若年層がNISA口座開設のシェアを高めている。
図表は金融庁のデータをもとにした、NISA口座の年代別口座開設シェアだ。近年では30代までの若年層における口座の伸びが著しい反面、50代以降ほど、シェアが低下している。
日本証券業協会がまとめた「2019年度個人投資家の証券投資に関する意識調査」では、NISA口座(一般・つみたて)の利用者は年収500万円未満の層が69.4%にものぼり、当初の狙い通り富裕層対策の678583制度として機能していることがうかがえる。
つみたてNISAに限っていえば、40代までの利用者で全体の66.7%を占めており、20代の口座伸び率が最も高くなっている。そのため、一般・つみたてにかかわらずNISA利用においては若年層の台頭が著しい。
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