ドコモ代理店「クソ野郎」騒動に潜む、日本からブラック企業がなくならないそもそもの理由:労働環境を悪化させる“ブラック乞客”とは(3/5 ページ)
NTTドコモ代理店で起こった「クソ野郎」問題が新年早々大きな問題になった。代理店運営の兼松コミュニケーションズだけでなく、NTTドコモも謝罪文を出す事態に。問題の真相はどこにあるのか。労働問題に詳しい新田龍氏はに“ブラック乞客”の存在を指摘する。
「顧客」と「乞客」の違い
「顧客の要求」といえば、「見る目が厳しい日本の消費者の要求水準に合わせようと努力したことで、高品質の製品やサービスが生まれた」と肯定的に捉える向きがある一方で、「サービスや商品に完璧を求め、無限に要求をエスカレートさせるモンスター客やクレーマー対応のためにブラック労働が強化される」と批判的な文脈で捉えられることもある。
後者については、日本社会における空気感のようなものと密接に関係している。長らく儒教的文化の影響を受けたことも一因かもしれないが、「立場が下の人は上の人の言うことを黙って受け入れるべき」かのごとき無言の社会的圧力があり、それに対して異論を唱えることは和を乱す行為と捉えられてしまう。教育やスポーツ指導の現場で、いまだに体罰やパワハラがニュースになり、職場で相変わらずセクハラやモラハラが横行しているのもその延長線上のことであろう。
ブラック乞客も同様である。彼らは「金を出してるんだから言うことに従え」「お客さまは神様だろ!?」といった意識が根強く、自らの立場を「上」と見なし、過剰な水準の接客サービスを悪気なく従業員に強いる。結果的に、対抗手段をもたない末端の労働者が給与に見合わない過剰労働を強いられることにつながってしまうのだ。
「お客さまは神様」の勘違い
ちなみにこの「お客さまは神様」というフレーズは、演歌歌手の三波春夫氏から発せられて有名になった言葉だが、これは悪質クレーマーが呪文のように唱える「金を払った客なんだから、神様扱いしろ」「神様なんだから、徹底的に大切に扱って尽くせ」といった意味では断じてない。氏は生前インタビューでこのフレーズについて問われた際、「歌うときに私は、あたかも神前に祈るように、雑念を払って澄み切った心になる」「演者として、お客さまを神様と捉えて歓ばせることが絶対条件なのだ」というふうに答えている。この場合の「お客さま」はあくまで聴衆のことであり、カスタマーやクライアントを指しているわけではないのだ。
相応の対価も払わずに、サービス要求水準ばかり厳しいお客さまは「神様」ではない。高いレベルのサービスを受けて気持ちよくなりたいのであれば、それに見合った金額を支払うお店に行けばよいのだ。また、暴言や恫喝(どうかつ)で相手を無理やり動かそうとするより、「忙しいときはお互いさま」と対等な立場で、相手に敬意を払って接すれば、その敬意はあなたに返ってきて、大切に扱われるに違いないはずだ。客であることをかさに着て威張るブラック乞客は存在自体が“イケてない”のである。そもそも、自分から「お客さまは神様だろうが!」などと言い張る客にロクな者はいない。もし誤解されているようなら、本日より認識を改めて頂くことをお勧めしたい。
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