膨らむ経済損失と不満 世界で始まった「コロナ訴訟」:世界を読み解くニュース・サロン(4/4 ページ)
緊急事態宣言が5月末まで延長され、経済活動の停滞が続くことになった。米国などでは、中国政府に損害賠償請求の訴えを起こすケースが増えている。また、企業や大学までも訴えられた。不満がさらに高まれば、日本でもそのような動きが増えてくるかもしれない。
また訴訟問題は教育分野にも広がっている。この連載でも取り上げたが(関連記事)、日本では学校が休校になってから、公立学校を中心にまともに教育が行われていない実態がある。テキストなどの課題を与えるだけというのは、教育とは言えない。国外では国家の未来を支えてくれる子供たちへの教育を途切れさせないように努力を続けているが、日本はかなり遅れている。
訴訟大国の米国では、学校に行けないことで集団訴訟になっている。別々の大学に通う2人の学生が、休校によって本来受けられるはずの教育を受けられないとして、それぞれが通う2校の大学を訴えた。大学側はオンライン授業などを提供しているが、学生らはクラスでの授業を受けるために学費を払っていると主張。さらに教授との対面のやりとりや、学内の施設の使用ができない状態であるとして、何らかの形での学費の返済を求めている。
オンライン授業を受けるために高い学費を払っているわけじゃないというのが彼らの言い分で、その意見に賛同する学生は増える可能性があるという。
また、これは訴訟ではないが、ニューヨーク大学では、1万1000人の学生が、学費を一部でも返金するよう求める署名活動を行っている。とにかく、大学も学費に見合った教育をしないなら学費を返すべきだというのである。もっともな意見だ。
こうした新型コロナにまつわる訴訟問題は、そのうち日本でも起きる可能性がある。特に、私権制限が長引けば長引くほど、人々の不満は高まり、怒りの矛先は海外や日本の政府、自治体、企業、学校などに向くことになる。そうならないためにも、きちんと説明を行い、みんなに理解してもらうしかない。
安倍首相も、今は外交日程よりも優先すべきことがあるのではないだろうか。
筆者プロフィール:
山田敏弘
元MITフェロー、ジャーナリスト、ノンフィクション作家。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフルブライト・フェローを経てフリーに。
国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)がある。テレビ・ラジオにも出演し、講演や大学での講義なども行っている。
お知らせ
新刊『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)が1月21日に発売されました!
イラン事変、ゴーン騒動、ヤバすぎる世界情勢の中、米英中露韓が仕掛ける東アジア諜報戦線の実態を徹底取材。
『007』で知られるMI6の元スパイをはじめ世界のインテリジェンス関係者への取材で解き明かす、東京五輪から日本の日常生活まで脅かすさまざまなリスク。このままでは日本は取り残されてしまう――。
デジタル化やネットワーク化がさらに進んでいき、ますます国境の概念が希薄になる世界では、国家意識が高まり、独自のインテリジェンスが今以上に必要になるだろう。本書では、そんな未来に向けて日本が進むべき道について考察する。
関連記事
- 米国の新型コロナ“急拡大”で迫りくる「中国復活」の脅威
世界的に新型コロナウイルスの感染が拡大している。日本の経済活動において影響力が大きい米国でも、多くの州で非常事態宣言が出された。米国は今、どのような状況なのか。このまま感染拡大が続けば、先に復活した中国の力が増すことにもつながりかねない。 - オンライン教育「周回遅れ」の日本 “コロナ休校”で広がる、埋められない空白
新型コロナウイルスの影響で休校が続く各国では、オンライン教育の提供が進んでいる。PCやルーターなどを無償提供して環境を整え、通常通りの時間割でオンライン授業を実施している国もある。日本も「教育の空白」を広げないための方向性を示すことが必要だ。 - “テレワーク急増”が弱点に? 新型コロナで勢いづくハッカー集団の危険な手口
新型コロナウイルス感染拡大で世界が混乱する中、それに便乗したサイバー攻撃が激増している。中国やロシアなどのハッカー集団が暗躍し、「弱み」につけ込もうと大量の偽メールをばらまいている。新型コロナに関する情報と見せかけたメールには注意が必要だ。 - 新型コロナで過酷さ増すトラック業界、「女性ドライバー」が期待ほど増えない理由
新型コロナで過酷さが増している業界の一つが物流だ。人手不足と高齢化を解決するために女性トラックドライバーへの期待が高まっているが、国交省が2014年からキャンペーンをやっているのに増えていない。まずは「トラガール」という呼称から見直し、男性本位の文化を変えるべきでは。 - 僕らのヒーローだったジャッキー・チェンが、世界で嫌われまくっている理由
香港アクション映画の象徴的存在、ジャッキー・チェンのイメージダウンが止まらない。隠し子である「娘」の振る舞いや、自伝で語られた「ダメ人間」ぶりなどが欧米やアジアで話題になっている。私たちのヒーローだったジャッキーに何が起きているのか。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.