誰も頼れず孤独死も…… 新型コロナがあぶり出す、家族と社会の“ひずみ”:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(5/5 ページ)
新型コロナ感染拡大によって、孤独死の問題も表面化している。家族のカタチは大きく変わり、頼ることができる「家族」がいない人も増えている。一方で、日本社会は40年前の「家族による自助」を前提とした理念と仕組みを踏襲し続けている。
40年前の理念を掲げ続けている
そもそも日本の社会保障は、さかのぼること40年前の1979年、大平正芳首相のときに自民党が掲げた政策方針である「日本型福祉社会」が現在でも踏襲されています。
日本型福祉社会の社会福祉の担い手は企業と家族であり、「結果の平等」を追求するような政策は「堕落の構造」を生むという考えに基づいています。北欧に代表される「政府型」や、米国に代表される「民間(市場)型」じゃない、「とにもかくにも、“家族”でよろしく!」という独自路線の福祉政策が日本型福祉社会です。
1986年に『厚生白書 昭和61年版』として発表された社会保障制度の基本原則では、上記の「日本型福祉社会」の視点をさらに明確化し、「『健全な社会』とは、個人の自立・自助が基本で、それを家庭、地域社会が支え、さらに公的部門が支援する『三重構造』の社会である、という理念にもとづく」と明記。2006年に政府がまとめた「今後の社会保障の在り方について」でも、40年前と全く同じことが書かれています。
想像以上のピッチで高齢化が進み、家族の稼ぎ手も家族のカタチも変わったのに、40年前と同じ理念を掲げ続けている。ライフスタイルの変化にも全く即していないのです。その“ひずみ”がコロナ禍で表面化した。「パンドラの箱」が開いてしまったのです。
河合薫氏のプロフィール:
東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。
研究テーマは「人の働き方は環境がつくる」。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。近著は『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(PHP新書)、『面倒くさい女たち』(中公新書ラクレ)、『他人の足を引っぱる男たち』(日経プレミアシリーズ)。
お知らせ
新刊『定年後からの孤独入門』(SB新書)が発売になりました!
「定年ぼっち」に負けない生き方とは――?
職場や社会に居場所のないオジサンたち。定年前後の本当の不安は、お金や健康より「孤独」なのです。
現役時のニッポンの“カイシャ生活”にこそ、定年前後の「孤独化」の芽があります。健康社会学の立場から、組織の中における現代人の「ジジイ化」「オジサン化」現象を分析し、鋭いメスを入れてきた著者が、「定年」を境に居場所を失い孤独に陥りやすい人の特徴を分析し、そうならないための対処法をお伝えします!
関連記事
- 「もう、諦めるしかない」 中高年化する就職氷河期世代を追い込む“負の連鎖”
40歳前後になった「就職氷河期」世代に対する支援に、国を挙げて取り組むことを安倍首相が表明した。しかし、就職時の不況や非正規雇用の拡大など、さまざまな社会的要因によって追い詰められた人たちの問題は根が深い。実効性のある支援ができるのか。 - 賃金は減り、リストラが加速…… ミドル社員を脅かす「同一労働同一賃金」の新時代
2020年は「同一労働同一賃金」制度が始まる。一方、厚労省が示した「均衡待遇」という言葉からは、正社員の賃金が下がったり、中高年のリストラが加速したりする可能性も見える。そんな時代の変わり目には、私たち自身も働き方と向き合い続ける必要がある。 - 月13万円で生活できるか 賃金を上げられない日本企業が陥る悪循環
米フォードの創業者はかつて賃金を上げて生産性を高めた。現代の日本では、海外と比べて最低賃金は低いまま。普通の生活も困難な最低賃金レベルでの働き手は増えている。従業員が持つ「人の力」を最大限に活用するための賃金の適正化が急務だ。 - 「コロナ手当」を美談で済ませず見直すべき、非正規雇用の“当たり前”
新型コロナウイルスによって、医療や小売、物流などで働くエッセンシャルワーカーが理不尽な状況に陥っている。流通各社が従業員に一時金を出す動きが報じられているが、そもそも「非正規=低賃金でいいのか」という議論も進めるべきだ。当たり前を疑うことが求められている。 - “お上”の指示でやっと広がる時差通勤と、過重労働を招くフレックスタイム――ニッポン社会の限界
新型コロナウイルス感染拡大の不安が高まる中、テレワークや時差通勤を促進する行政機関や企業が増えてきた。通勤ラッシュのストレスを軽減する動きは広がってほしいが、日本人には「フレックスタイム」よりも「時差通勤」が必要ではないか。なぜなら……
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.