鉄道業界に「バーチャル背景」ブーム 外出自粛で薄れる存在感、“つながる”一手に:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/6 ページ)
テレワークの普及で広まったオンライン会議ツール。鉄道各社が相次いで「バーチャル背景」を配布している。外出自粛によって鉄道の存在感が薄れる中、ビジネスパーソン向けコンテンツを発信することで、親しみを持ってもらう狙いがあるようだ。
鉄道会社が「バーチャル背景」を配布する意味
ここまでで挙げた鉄道会社のほかにも、デスクトップ用壁紙を用意する会社があり、バーチャル背景としても利用可能だ。わざわざ「バーチャル背景」と紹介する画像は、サイズが1920×1080ピクセル、あるいはその等倍になっていて、オンライン会議ツールとの相性に配慮している。また、写真そのものを鑑賞するというより、臨場感を重視している。
冒頭で書いたように、鉄道事業者は大型連休前に「子ども向けコンテンツ」を展開していた。大型連休後は「ビジネスパーソン向けコンテンツ」としてバーチャル背景を用意した。また、実施している会社は関東大手私鉄が多く、関西私鉄は少ない。これはおそらく、東京都が他の地域に先駆けて外出自粛を呼びかけたためだと思われる。
鉄道会社のビジネスとしては、電車に乗ってもらいたい。しかし外出自粛が要請される状況では「どうぞ乗ってください」とは言いづらい。社会における鉄道の存在が希薄になりつつあるなかで「鉄道に親しみを持っていただく」という取り組みが重要になっている。それは今に始まったことではない。
鉄道各社は少子高齢化傾向をにらみつつ、少しでも他社より沿線人口を確保したいと考えている。そのために座席指定通勤列車を投入し、沿線のレジャー施設を拡充してきた。駅のトイレの改修やエレベーターの設置も同様だ。バーチャル背景の提供は、自社沿線のファンを増やし、地域の価値を高めたい、という活動の延長にある。
特に、リモートワークを始めれば通勤電車の利用から遠ざかる。そこにバーチャル背景を提供することで「普段使っている通勤電車って、よく見るとカッコいいんだな」とか「電車も毎日、メンテナンスしているんだな」とか「こんな景色の場所があるのか」と業務を理解してもらえる。
画像を見ると、実際に会議で使うというよりは、オンライン飲み会向けが多い。自宅付近の鉄道の背景を使えば、同じ沿線に住む人との会話が弾むかもしれない。バーチャル背景をもらうために公式サイトを訪問し、公式SNSに参加すれば、その鉄道会社の他のコンテンツも目に入る。利用者とのコミュニケーションのきっかけでもある。
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