借金を返せなくてもヤクザは来ない:集中連載 新型コロナで経済死しないための方法 (3/3 ページ)
資金繰りに行き詰まり、お金が払えなくなったらどうなるか? 「ナニワ金融道」張りの怪しい面々にあの手この手でハメられたり、暴力団がやってきて昼夜を問わずドアをたたかれたりするのではないかと想像する人がいるかもしれないが、それはもう過去の話である。「債権管理回収業に関する特別措置法」によって生まれた債権回収会社(サービサー)について紹介しよう。
債務者保護
当然、サービサーが実際に債権回収業務を行う際のルールも厳格に決められている。
サービサーには定期的に法務省のチェックが入り、債務者との交渉記録を確認される。その交渉記録の要約は認められず、会話をほぼ一字一句余さず記録を取らなければならない。サービサー側では債務者に断った上、録音や録画を行ってこの記録を残している場合が多い。この記録は法務省によってほぼ全数チェックが行われており、万が一、少しでも威圧的な言動が確認されれば、行政処分の対象になる。
だから、あなたが、止むを得ない事情で支払いができなくなったとしても、それで世を儚(はかなむ)む必要はない。新しい制度の中心には、債務者の保護が明確に据えられており、サービサーは、債務者の事情をよく聞き出して、理解して次の対策を練るスタンスに変わったからだ。もちろんそのためには事業の詳細について聞き取り、判断し、経営者と一緒になって継続の可能性を探る。そういう能力もサービサーの重要な機能なのだ。だから、もうむしり取るような集金におびえる必要はない。
取れない債権を無理やり取ろうとしないという制度にとって、もうひとつ重要なのは、債務者がサービサーをだまさないという点にある。決算書を粉飾したり、資産を隠そうとしたりすれば、せっかくできた制度が機能しなくなってしまうからだ。
条件を譲歩する判断は、サービサー側が持っているのだから、もしそういうウソがバレて、払えるものでも払わないで済まそうという意図が見抜かれれば、条件譲歩の可能性は減ってしまう。ウソをつくことは債務者のためにもならない。
制度の狙い
このように、約20年ほど前に、債務に関するやりとりが大きく変わった。その中心にあるのは「債務者保護」だが、もう一歩引いて捉えるとまた別の絵柄が見えてくる。
例えば2本目の記事で書いた、銀行の「期限の利益」の話も同じ構図なのだが、これまで債権の取りっぱぐれという、債権者にとっての部分最適のみが注視されてきた。しかし、社会全体から見れば、中小企業は国内全企業の99.7%を占める国力の源である。
「金を取り返したい」という気持ちは分かるが、債務者の事情をよくチェックして、回復が可能かどうかを判断する能力があれば、無理してわずかばかりのお金をむしり取って倒産させてしまうこともない。これからも長く取引先として付き合い、時間がかかっても全額を回収したり、新たなビジネスのパートナーとなったりするかもしれない相手である。そもそも借金があるということは、何某(なにがし)かの商取引をした相手である。社会全体を見渡した全体最適化を考えた時、無闇に倒産させないことは大きな意味を持っている。
何より、起業する人はそう多くない。あなたの代わりになる新規顧客が無限に湧き出てくるわけではないのだ。
もちろん、支払いが滞らないに越したことはない。けれども、支払いが滞ったことは終わりではない。真摯に向き合い、隠し事なく話し合えば、必ず出口はある。かつて多くの犠牲者の上に築かれた新しい制度をしっかり利用していくべきである。
筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。コメント欄やSNSなどで見かけた気に入った質問には、noteで回答を行っている。
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