連載
窓口対応で土下座まで……「カスハラ」対策、“理不尽なおもてなし”から解放されるか:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(3/4 ページ)
6月から職場でのパワハラ対策が大企業に義務付けられた。公務員ではパワハラ対策と合わせて、「カスタマーハラスメント」対策も進められる。“おもてなし”という言葉でごまかさずに、感情労働にはお金とケアが必要だという認識が広まってほしい。
「おもてなし」でごまかさなかった、スカイマークの方針
しかしながら、日本では感情労働が「おもてなし」に都合よくすり替えられてしまっているのです。本来であれば、従業員のサービスや感情コントロールの訓練と教育を行ったり、感情労働分の賃金を上乗せしたりするなど、お客さまを満足させるための投資が欠かせないのに、「おもてなし」という言葉を使うことで、感情が切り売りされ、「決してタダじゃないサービス」が、タダにされてしまっています。
2012年にスカイマークが、「スカイマーク・サービスコンセプト」という冊子を座席のシートポケットに入れ、顧客からのクレームで回収するという事態に至ったときもそうでした。
冊子には、
- 荷物の収容はしない
- 従来の航空会社の客室乗務員のような丁寧な言葉使いを当社客室乗務員に義務付けていない
- 安全管理のために時には厳しい口調で注意をすることもある
- メークやヘアスタイルやネイルアート等に関しては「自由」
- 服装については会社支給のポロシャツまたはウインドブレーカーの着用だけで、それ以外は「自由」
- 客室乗務員は保安要員として搭乗勤務に就いており接客は補助的なもの
- 幼児の泣き声等に関する苦情は一切受け付けません
- 地上係員の説明と異なる内容をお願いする際は、客室乗務員の指示に従うこと
- 機内での苦情は一切受け付けません
- ご理解いただけないお客様には定時運航順守のため退出いただきます
- ご不満のあるお客様は「スカイマークお客様相談センター」あるいは「消費生活センター」等に連絡されますようお願いいたします
などと書かれ、大バッシングが起き、メディアもスカイマークをたたきまくりました。
でも、これでいいのです! 当時、私はコラムでも取り上げ、「オ〜、よくぞここまで言い切った!」と褒めたたえていましたが、このサービスコンセプトこそが搭乗料金の値下げにつながっているというロジックが成立するわけですから、全く問題ないのです。
関連記事
- 賃金は減り、リストラが加速…… ミドル社員を脅かす「同一労働同一賃金」の新時代
2020年は「同一労働同一賃金」制度が始まる。一方、厚労省が示した「均衡待遇」という言葉からは、正社員の賃金が下がったり、中高年のリストラが加速したりする可能性も見える。そんな時代の変わり目には、私たち自身も働き方と向き合い続ける必要がある。 - 「上司の顔色伺い」は激減? テレワークでは通用しない“働かないおじさん”
新型コロナによって、多くの企業がテレワークや在宅勤務の導入を余儀なくされた。今後は新しい働き方として定着していくだろう。そうなると、上司と部下の関係も変わる。前例や慣習が通じない世界が待っている中、新しい上司部下関係を構築していく必要がある。 - 「もう、諦めるしかない」 中高年化する就職氷河期世代を追い込む“負の連鎖”
40歳前後になった「就職氷河期」世代に対する支援に、国を挙げて取り組むことを安倍首相が表明した。しかし、就職時の不況や非正規雇用の拡大など、さまざまな社会的要因によって追い詰められた人たちの問題は根が深い。実効性のある支援ができるのか。 - 誰も頼れず孤独死も…… 新型コロナがあぶり出す、家族と社会の“ひずみ”
新型コロナ感染拡大によって、孤独死の問題も表面化している。家族のカタチは大きく変わり、頼ることができる「家族」がいない人も増えている。一方で、日本社会は40年前の「家族による自助」を前提とした理念と仕組みを踏襲し続けている。 - 新型コロナで増える「パワハラ」 “悲劇の温床”を放置する経営トップの責任
新型コロナ問題でパワハラが増えるのではないかという懸念が広がっている。人は環境によって被害者にも加害者にもなり得る。経営が厳しくなることは避けられないが、「人」を軽視すると、弱い立場の人の命が奪われることになるのを忘れてはいけない。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.