窓口対応で土下座まで……「カスハラ」対策、“理不尽なおもてなし”から解放されるか:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(4/4 ページ)
6月から職場でのパワハラ対策が大企業に義務付けられた。公務員ではパワハラ対策と合わせて、「カスタマーハラスメント」対策も進められる。“おもてなし”という言葉でごまかさずに、感情労働にはお金とケアが必要だという認識が広まってほしい。
従業員を守るカスハラ対策は進んでいくか
つまり、「スカイマーク・サービスコンセプト」は、「わが社の飛行機に乗っているのは、客室乗務員ではなく、保安員です。ですから、他の航空会社さんとは違うのです」というお客さんへのメッセージであると同時に、「わが社はあなたたちに、乗客を感情的に満足させることを求めていない。あなたたちは、安全に乗客を届ける仕事に専念してください」という社員へのメッセージです。
誤解のないように断っておきますが、社会人の当たり前の振る舞いとして、お客さんに感謝したり、仕事をスムーズに進めるためにお客さんとコミュニケーションを取ったり、自分がお客さんを喜ばせたくてサービスすることと、「何が何でもお客さんを満足させる!」ことは別。
お客さまを「大切」に思って丁重に接することと、感情を売り払ってまでお客さまを満足させることは、決して同じではありません。
ちなみに、カスハラは世界的に問題になっていて、19年にILO(国際労働機関)の定時総会で採択された「ハラスメント禁止条約」では、「顧客や取引先からの自己中心的で理不尽かつ悪質なクレームや要求」=カスハラも対象になっていますし、韓国では、従業員を守れなかった会社に対して最高1000万円の罰金を科す法律もあります。また、欧州では、もともと「ハラスメントは職場の問題」という価値観が共有されているので、カスハラがあった場合、会社が従業員を守る義務と、従業員がカスハラで損失を被らないような心理的サポートについても「ハラスメント対策」に含まれているのです。
河合薫氏のプロフィール:
東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。
研究テーマは「人の働き方は環境がつくる」。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。近著は『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(PHP新書)、『面倒くさい女たち』(中公新書ラクレ)、『他人の足を引っぱる男たち』(日経プレミアシリーズ)。
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