DXのために必要なのは「イケてるITシステム」ではない、と言い切れるワケ:偉そうなオジサン社員に大打撃(5/6 ページ)
新型コロナでテレワークが浸透し、デジタルトランスフォーメーションの機運がこれまで以上に高まっている。高度なITを使い華々しく語られることも多いDXだが、筆者はDXに高度なITは必要でない、と指摘する。
DXで「偉そうなおじさん社員」はどうなったか
「テレビ会議はよくて、Zoomを使ったオンライン会議はなぜダメなんですか」と筆者が質問すると、「セキュリティに問題があると聞いた。そんなものはダメだ」と、別の理由を持ち出す。リアルでは、いつも腕を組み、ふんぞりかえって座り、私たちコンサルタントが配った資料には触りもしない専務だ。
2年前に事業を承継した若い社長が、私たちコンサルタントと一緒にやろうとしていた経営改革に彼は真っ向から反対していた。先代の社長が「自分の息子に経営の全てを託した」と明言したにもかかわらず、常務や本部長クラスと手を組み、新社長の方針にはことごとく異を唱えてきた。しかし、このコロナの影響によって形勢逆転した。経営会議をはじめとした全ての社内会議がオンライン化したからだ。
新社長は、DXによって経営改革を促進すると全社員の前で宣言した。そして社内会議や商談、教育の在り方など、全てオンライン対応すると言い、そして新しい社内ルールやマニュアルを私たちと数日間でつくり上げた。専務をはじめとした抵抗勢力の幹部たちは、このスピード感に全くついて来られなかった。
経営会議は毎回、私たちコンサルタントが主導する。先述した専務や本部長たちは、オンライン会議ツールの画面に自分の顔がどのように映っているのか、まるで無頓着のようだった。逆光で、自分の表情が影で全く見えなくなっていることや、自分の顔の3分の1ほどが画面から切れているということに関しても全く興味がないようだった。いつも時間になったら会議室にやってきて「偉いオーラ」を出しているだけのおじさん社員にとって、オンライン会議というのは、大敵なのである
その結果どうなったか。リアルでは感じられたオーラが、オンライン会議では何も感じられなくなったのである。リアル会議では威力を発揮した「同調圧力」も効力ゼロになった。新社長は、コロナの影響が落ち着いたとしても、テレワークやオンラインによる会議や打ち合わせを継続すると公言している。これは、従来のやり方をかたくなに変えないような人たち、特に「組織が自分たちのやり方に合わせろ!」というスタンスの古参社員を組織から排除するにはすごく手っ取り早い方法だ。新社長はこれを機会に、若くて優秀な社員のみならず、この会社で働く女性社員のほとんどを味方に付けた。まさにDXの力によって、経営改革を進められた好例といえるだろう。
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