「カメラ事業売却」の衝撃 業務提携中のオリンパスとソニー、祖業を巡る両社の分岐点とは?:コロナ禍で好対照(2/4 ページ)
カメラ映像事業の売却を発表したオリンパス。好対照なのが、業務提携関係にあるソニーだ。コロナ対応を巡る両社の分岐点とは?
赤字体質でも「祖業」を手放さなかったソニー
パラダイムシフトを早期に察知して、次なる戦略的展開を打ち出した代表例はソニーです。同社は5月、2021年4月から持株会社化して社名をソニーグループに変更、銀行業および保険業を担当する関連上場企業ソニーファイナンシャルホールディングスを完全子会社化して傘下に収めると発表しました。同社の社名変更は、創業時の東京通信工業からソニーへ1958年に変更して以来、実に63年ぶり。今回の社名変更について吉田憲一郎CEOは、「多岐にわたる事業をまとめていく会社としてソニーを再定義する必要がある」としています。
社名変更は、ややもすると創業精神の踏襲や原点回帰とは無縁な新展開の象徴のように思われそうですが、今回のソニーの場合はそうではないようです。ゲーム機、パソコン事業の不振に端を発した03年のソニーショック、さらにはテレビ事業を核とするエレキ部門の不調から同社は構造的赤字体質に陥り、09年からは7期のうち6期で赤字を計上するという長い「冬の時代」を経験しました。しかし不断の努力でようやく出血を止め新たな中核事業を作り出すことで再び成長の芽を紡ぎ、株価で17年ぶりの高値を記録した今の復活は、「祖業」重視の経営姿勢抜きには語れないのです。
ソニー「冬の時代」において最も厄介だった問題は、巨額の赤字体質に陥ったテレビ事業でした。ソニーにおけるテレビ事業は長年同社の発展を支えてきた最重要事業であり、まさに「祖業」ともいえる存在です。しかしその最重要事業は新興国企業の急追を受けた競争激化による価格破壊に巻き込まれ、構造的赤字事業に成り下がってしまったわけです。
モノ言う株主からは、再三テレビ事業の売却を迫られてもいました。しかし、リストラ策検討の過程でパソコン事業の売却は決断した経営陣でしたが、より大きな赤字を抱えるテレビ事業に関しては売却を拒み、あえて自力での黒字化に執心しました。祖業であればこその対応であり、モノづくり企業にとって創業来の魂を伝える事業を死守したといえます。
その後もテレビ事業の黒字化までには一筋縄ではいかない苦労を強いられたわけですが、ソニーにテレビ事業が存続したからこそ、その経験や蓄積ノウハウを活用してその後のソニー復活に大きく貢献した画像センサー事業の確立が果たせたわけなのです。そして今回の社名変更もまた、基本は同じ祖業重視、原点回帰の精神に裏打ちされていると、捉えることができます。
思えば創業時の東京通信工業からソニーへの社名変更は、電機や通信のイメージに縛られない多角化企業を標ぼうしてのものでした。今回の社名変更の目的も、全く同じ創業の精神を踏襲した新たな多角化戦略です。そして同時に発表されたのは、栄光あるソニーの社名はテレビ事業を核とするエレキ部門子会社に継承されるという計らいでした。大きなパラダイムシフトと対峙した今だからこそ、祖業への敬意と原点回帰の重要性を形で示したといえます。
関連記事
- 長期化するコロナショック レナウンの次に危ない有名企業とは?
新型コロナの影響はとどまらず、航空業界、観光業界を中心に甚大な影響を与え続けている。日本企業では、レナウンの破綻が話題となったが、経営に詳しい筆者の大関暁夫氏は、次に危ない企業として、2つの有名企業を挙げる。共通するのは、両社とも“時限爆弾”を抱える点だ - 7年ぶりに新作の半沢直樹 1月放送の「エピソードゼロ」からメガバンクの生存戦略を読み解く
7年ぶりに続編が放映されるドラマ「半沢直樹」。当時から今までで、銀行界はどう変わった? メガバンクの生存戦略と作品を合わせて読み解く。 - 都銀再編時に「ごみ箱」構想を持っていた金融庁と地銀救済で手を組むSBIホールディングスは天使か、悪魔か?
SBIホールディングスが仕掛ける「地銀救済」。陰には金融庁の影響も見え隠れするが、「証券界の暴れん坊」と目されるSBIと金融庁、それぞれの思惑とは? 過去、銀行勤務時代に大蔵省との折衝を担当していた筆者によると、90年代の都銀再編時に官僚は「ごみ箱」構想を持っていたという。 - 「新聞紙をトイレ代わりにせよ」……モンスター株主のトンデモ議案が無くならないワケ
「役員及び社員は排便の際、洋式便器の便座の上にまたがるべき」「トイレットペーパーの代用品として、古い新聞紙で便座を作り、そこに排便すべき」。株主から三井金属鉱業に、こんな株主提案がなされた。取締役会はこれに大真面目に反対する書面を公開したが、なぜこんなトンデモ議案が再来するのだろうか。 - 話題の「社員PC監視ツール」がテレワークを骨抜きにしてしまう、根本的理由
テレワークで従業員がサボらず仕事しているかを“監視”するシステムが話題になった。テレワークは本来「成果」を出すためなら「働く場所」を問わない制度のはず。こうしたシステムが出てくれば、テレワークが骨抜きになってしまい、生産性を高める「成果主義」が定着しない、と新田龍氏は指摘する。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.