自分も切られる―― 加速する「人減らし」 コロナ禍を生き抜く、“人を守る”知恵:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(4/4 ページ)
「そのうち自分も切られる」――正社員でもそんな不安を抱えている。企業の“人減らし”は、コロナ禍によってさらに加速している。そんな中、「働くこと」を守る取り組みも始まっている。雇用維持のために助け合える企業こそ、生き残っていけるのではないか。
「働くこと」を守る動きも始まっている
なんだか書いているだけで気分が滅入ってくるのですが、一方で、コロナ禍の今だからこその「いいムーブメント」が起きているのも事実です。
例えば、兵庫県は「雇用の維持が難しくなった企業」と「人手不足の業種」を結び付ける仲介事業を始めました。短期的に人手を求める事業主からの求人情報を専用のサイトに掲載し、雇用の維持に悩む企業や職探しをする個人が求人側に直接連絡できる仕組みを作りました。
兵庫県は阪神淡路大震災のときも、「ワークシェアリング」を進めるなど、企業が雇用を維持できるサポートをしてきました。昨年、講演会に呼んでいただいたときに、その時の経験や今取り組んでいる問題などを伺いましたが、コロナでも迅速な動きで「人」を見ていることはとてもうれしいし、希望を感じます。
その他の地方自治体でも徐々に「人が働く」ことを守る動きが始まっています。お互いに傘を貸し合えるような知恵を絞ることができる企業こそが、この先残っていくのではないでしょうか。また、そんな企業を支える気概がある自治体だけが発展していくのではないでしょうか。
そして、もう一つ。今回取り上げた男性にも、きっと変化が生まれるに違いありません。
今まで私がインタビューしてきた人たちは、この男性のように、自分のふがいなさを話すことが、次の一歩になっていました。人に自分の胸の内を話すことは自分を客観視することであり、その結果として「次」が見える。そこに例外はありませんでした。
河合薫氏のプロフィール:
東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。
研究テーマは「人の働き方は環境がつくる」。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。近著は『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(PHP新書)、『面倒くさい女たち』(中公新書ラクレ)、『他人の足を引っぱる男たち』(日経プレミアシリーズ)、『定年後からの孤独入門』(SB新書)
お知らせ
新刊『コロナショックと昭和おじさん社会』(日経プレミアシリーズ)が発売になりました!
失業、貧困、孤立――。新型コロナウイルスによって社会に出てきた問題は、日本社会にあった“ひずみ”が噴出したにすぎません。
この国の社会のベースは1970年代のまま。40年間で「家族のカタチ」「雇用のカタチ」「人口構成のカタチ」は大きく変化しているのに、それを無視した「昭和おじさん社会」が続いていることが、ひずみを生み続けています。
コロナ禍を経て、昭和モデルで動いてきた社会はどうなってしまうのか――。
「日経ビジネス電子版」の長期連載を大幅に加筆し、新書化しました。
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