日本でも堂々リクルート 中国の“人材狩り”に切り込んだ、豪レポートの中身:世界を読み解くニュース・サロン(4/4 ページ)
オーストラリア発で、中国の“優秀人材狩り”に関するレポートが公開された。世界中に拠点を構え、あの手この手で先進分野の人材を協力者にしている。日本でもリクルートイベントなどを開催している。知財などの搾取を止めるため、法規制や危機管理を徹底すべきだ。
莫大なカネを使って優秀人材を集める理由
中国にとって、これらの人材確保作戦の裏には、「中国製造2025」という目標がある。この目標は簡単に言うと、これまで世界の工場だった中国が、イノベーションを起こせるような国に変貌するための計画、ということ。データ通信やAI(人工知能)などの分野で世界をリードすべく国を挙げて動いているのである。そこに優秀な人材は不可欠であり、その確保のために、莫大なカネを使って国を挙げて取り組んでいる。
レポートにはこう書かれている。「こうした中国政府の取り組みは、透明性が欠如しており、広く不正行為が関わり、知的財産の搾取やスパイ行為が絡む。そして人民解放軍の近代化や人権侵害を助長することに貢献しているのである」
日本や米国での例を見ると、中国のやっていることが立派な産業スパイ行為であることが分かる。こうした経済に絡んだ中国によるスパイ行為は最近、世界中で起きている。これまでの米国による中国スパイ活動の摘発や今回のレポートでも分かる通り、中国は諜報員や軍人だけではなく、留学生などの民間人が大学関係者や研究者などを駆使してスパイ工作を行っている。そして国家の経済を支えているような分野で先端技術や研究を盗み出そうと企てているのである。国家の力を削いでいることからも、これはもう安全保障の問題である。
日本にはスパイ防止法が存在しないと批判されて久しい。特定秘密保護法や国家公務員の守秘義務違反などの法律は存在するものの、民間企業や教育機関などさまざまな分野の人たちがあの手この手で暗躍する現在の中国のスパイ工作には到底対処できない。スパイ防止法などの法整備がなされなければ、日本にかなり大勢いると見られている「スパイ」の行為をきちんと摘発し、厳しい罰則を与えることができないし、抑止もできない。
日本のビジネスパーソンも、企業の危機管理としてこうした動きは知っておいたほうがいいだろう。さらに、広範囲に活動する中国のスパイ行為に、自らが知らぬ間に加担していないよう気を付ける必要もある。
筆者プロフィール:
山田敏弘
元MITフェロー、ジャーナリスト、ノンフィクション作家。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフルブライト・フェローを経てフリーに。
国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)がある。テレビ・ラジオにも出演し、講演や大学での講義なども行っている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
データも人材もファーウェイに流出? 倒産するまで盗み尽くされた大企業に見る、中国の“荒技”
2009年に倒産したカナダの大手IT企業が、中国から継続的なサイバー攻撃を受けていたことが報じられた。ファーウェイなどに情報や人材が流出したと見られている。コロナ禍で体力が弱った日本企業も標的になっており、すでに工作が始まっていても不思議ではない。
僕らのヒーローだったジャッキー・チェンが、世界で嫌われまくっている理由
香港アクション映画の象徴的存在、ジャッキー・チェンのイメージダウンが止まらない。隠し子である「娘」の振る舞いや、自伝で語られた「ダメ人間」ぶりなどが欧米やアジアで話題になっている。私たちのヒーローだったジャッキーに何が起きているのか。
社員の肩書でじわりと盗む 組織に入り込んでいく、中国・経済スパイの実態
中国のスパイ活動を巡って、米中の対立が激化している。米国は以前から知的財産などを盗まれてきたが、日本ももちろん例外ではない。研究者や社員といった肩書を持つ協力者が重要な情報をじっくり盗んでいく。そういったケースが各国で判明している。
禁止か買収か TikTokがトランプの目の敵にされる「4つの理由」
人気アプリ「TikTok」を巡って、米中の混乱がさらに深まっている。なぜ米政府はTikTokの禁止や買収に言及しているのか。トランプ大統領がこのアプリを禁止したい理由は4つある。TikTokに逃げ道は残されておらず、こういった締め付けは今後も続く可能性が高い。
中国の“嫌がらせ”を受けるオーストラリアに、コロナ後の商機を見いだせる理由
新型コロナを巡って、オーストラリアと中国の関係が悪化している。もともと両国の経済関係は深いが、中国は買収や投資によって影響力を強めており、オーストラリアでは不信感が募っていた。対立が深まる今、オーストラリアが日本との関係を強化する期待もできそうだ。
米国の新型コロナ“急拡大”で迫りくる「中国復活」の脅威
世界的に新型コロナウイルスの感染が拡大している。日本の経済活動において影響力が大きい米国でも、多くの州で非常事態宣言が出された。米国は今、どのような状況なのか。このまま感染拡大が続けば、先に復活した中国の力が増すことにもつながりかねない。
スパイは社員に紛れている! 三菱電機、ソフトバンクの情報漏洩が人ごとではない理由
三菱電機やソフトバンクの社内情報が、サイバー攻撃やスパイによって流出したことが報じられた。だが、このような手口は最近始まったことではないのが現実だ。日本の全ての企業が標的になっていると考えて対策に乗り出さなくては、どんどん喰い物にされてしまう。
