「副業・兼業」礼賛の時代へ “自由な働き方”に隠れた、企業の責任放棄:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(2/4 ページ)
コロナ禍を機に「副業人材」を公募する企業が増加している。働く人にメリットがある一方で、企業にとって都合のいい働かせ方となる可能性も。ガイドラインでは労働時間を自己申告で管理し、上限を過労死ラインとしている。雇用側の責任を放棄できるやり方は見直すべきだ。
副業は“生きる力”にもなるが……
その背景にあるのが、コスト削減です。
コロナ前はまだ多くの企業が副業に否定的でしたが、コロナ禍で出社しなくても仕事はできることが分かったことに加え、
「副業にしちゃえば、コストをかけずに優秀な人材を集められるぞ!」
「副業解禁すれば、減った賃金の穴埋めになるしね!」
「だいたいみんな副業やりたいっしょ?」
「そうだよ。会社に縛られる人生なんてまっぴら」
「つーか会社に依存する輩はいらなくね?」
「働き方が変わる! 生き方も変わる!」
「そーだそーだ! 副業解禁! 副業人材求む!」
……と、コスト削減の一環で副業解禁が加速しているのです。
もっとも、いかなる“思惑”が企業側にあろうとも、副業は働く人たちにとっても大きなメリットがあるので、副業解禁は決して悪いことではありません。
会社では邪魔者扱いされていた中高年が、新たな場所で自分の経験やスキルを生かせればモチベーションが高まるし、「学び」にもつながります。自分とは年齢も性別も価値観も違う人たちと接し、主体的に動けば、「学びに方向性はない」ことが分かり、腐ってる場合じゃない、とどんどん学びたい気持ちが刺激されることだって期待できる。人は環境で変わるし、環境を変えることもできる。副業により自分を取り巻く「半径3メートル世界」に新たな風が吹き込めば、「生きるエナジー」が充電されることが期待できるのです。
実際、ライオンでは5人の枠に約1650人、ヤフーには約110人の枠に4000人超が殺到したと報じられていますし、仕事紹介サイト大手のクラウドワークスでは6月末の登録者数が1年前より100万人近く増えている(朝日新聞朝刊、9月21日付)のも、自分の可能性にかけてみたいという人が増えているからなのでしょう。
しかしながら、ここで忘れてはならないのは「副業の先」に待ち構えている未来です。
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