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「副業・兼業」礼賛の時代へ “自由な働き方”に隠れた、企業の責任放棄:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(3/4 ページ)
コロナ禍を機に「副業人材」を公募する企業が増加している。働く人にメリットがある一方で、企業にとって都合のいい働かせ方となる可能性も。ガイドラインでは労働時間を自己申告で管理し、上限を過労死ラインとしている。雇用側の責任を放棄できるやり方は見直すべきだ。
「過労死ライン」が労働時間の上限に
冒頭に書いた通り、企業が目指す未来は「法人の頭は残すけど、胴体はその都度とっかえひっかえする」という働かせ方です。つまり、企業側には本来「雇用する責任」が存在しているのに、副業を容認すればその責任を放棄できる。企業の責任が、働き手の「個人の自由」という耳触りのいい言葉に置き換わっているという歴然たる事実が存在しています。
例えば、9月1日、厚生労働省は「副業・兼業の促進に関するガイドライン」の改訂版を公表しました。その中に「基本的な考え方」と「労働時間管理」が記されているのですが、実に微妙です。(以下、抜粋して要約)
【基本的な考え方】
- 労働者と企業の双方が納得感を持って進めることができるよう、企業と労働者との間で十分にコミュニケーションをとることが重要。
- 使用者及び労働者は、1.安全配慮義務、2.秘密保持義務、3.競業避止義務、4.誠実義務に留意する必要がある。
- 原則、労働者は副業・兼業を行うことができるが、例外的に上記1〜4に支障がある場合には副業・兼業 を禁止又は制限できる。
【労働時間管理】
- 法定労働時間、上限規制(単月100時間未満、複数月平均80時間以内)について、労働時間を通算して適用。
- 通算して法定労働時間を超える場合には、長時間の時間外労働とならないようにすることが望ましい。
- 使用者は、労働者からの申告等により、副業・兼業の有無・内容を確認する。
興味のある方はガイドラインを読んでいたただきたいのですが、本来、企業側に責任が課せられている「労働時間の管理」が、「働く人の自己申告」を前提としている。しかも、「上限規制=単月100時間未満、複数月平均80時間以内」と、“さらり”と書かれていますが、これらはいずれも「過労死ライン」です。
思い起こせば、2017年に残業の上限規制を巡る「100時間攻防」がありました。
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