アフター・コロナの中国はいま:KAMIYAMA Reports(2/3 ページ)
中国は、コロナ禍の影響から経済が大幅に落ち込んだものの、感染拡大の初期段階で行動制限等の措置を素早くとったことにより、現状、生産など経済活動は他国に先駆けて正常化しつつある。
テック・ウォーの結果、中国の関連産業の自立期待へ
米国トランプ政権において顕著になった米中のテクノロジーに関わる「覇権争い」(テック・ウォー)には、主に米国による(1)米国や同盟国における通信分野の制限と(2)中国への戦略製品の輸出禁止がある。この政策は、民主党政権になっても続くと思われる。そもそも国防・安全保障の観点からの戦略なので、政権の考え方に依存することはなく、今後も続くだろう。
中国は、現時点で米国と覇権を争える力はない状態だが、国内で5Gネットワークの構築を進め、米国からの輸入に依存していた高度な半導体などの国内生産を一気に進める方針である。このところ中国の株価指数の推移をみると、少なくとも中国株式市場への参加者は、中国政府の政策実行力に期待しているようだ。
トランプ政権による貿易摩擦が懸念されていたころは、銀行など従来型産業が多くを占める上海総合指数に対して、テクノロジー関連が多くを占める深圳総合指数がアンダーパフォームしていた。しかし、2020年初頭から、深圳総合指数がアウトパフォームし始めた。テック・ウォーが懸念される一方で、中国の関連産業が、国策でもある米国依存から脱却する可能性を市場が織り込み始めたと思われる。
一方、アント・グループの上場延期が、インターネット関連を含むテクノロジー企業の発展を阻害することになるのか、という質問が多く寄せられる。真相は分からないが、今のところ、この件はテクノロジー全般というよりも、金融規制に関わる特殊事情と考えている。
中国国内の改革派は、アントのような民間企業が金融部門で成長することは良いと考え、上場を後押ししたかもしれない。
しかし、国内金融の保守派からみれば、アントのビジネスモデルが政府の(監視カメラに代表される)個人情報管理のメカニズムを通じて作られた信用秩序にただ乗りしているようにも見える。
この問題はテクノロジー企業の限界というよりも、金融システムの維持拡大と改革のはざまでうまくいかなかった例だと考えている。
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