コロナ禍の経営悪化、企業の“既往症”が影響? 2021年に向けた、マネジメントのヒントを探る:マネジメントで振り返る2020年(4/4 ページ)
コロナ禍が猛威をふるった2020年。さまざまな業界・企業が経営悪化に見舞われた。経営コンサルタントの大関暁夫は、経営悪化した企業は“既往症”が影響しているとみる。マネジメントを軸に、1年を振り返ってみよう。
21年はM&Aが相次ぐ?
最後に、間接的なコロナ禍の影響として現れた注目の企業動向として、活発化の兆しを見せてきた「事業会社による敵対的TOBの本格化」についても触れておきます。
この流れは、新時代の企業経営あるいは21年以降の企業マネジメントを考える上で、重要な示唆をはらんでいます。特にコロナ禍に苦しむわが国の外食産業において、初めての敵対的TOB成立といえるコロワイドによる大戸屋の経営権奪取は、大きな関心をもって受け止めるべき出来事でした。独自性を軸に業績低迷を乗り切ろうとする大戸屋に、居酒屋をはじめ多業態・低コスト戦略でコロナ禍に撃ち勝とうというコロワイドがTOBを仕掛ける展開は、コロナ禍におけるお互いの生き残り戦略を真正面から戦わせるという、非常に興味深いものでした。
敵対的TOBではないものの、ニトリとDCMホールディングスの間で争われた、島忠に対する「競争的買収」もまた、コロナ禍を受けた企業戦略の新たな形として注目されるところです。ニトリは、コロナ禍における巣ごもり需要をいち早く的確にとらえたことで前年比で4割以上の増益を計上しており(20年3〜8月期)、この機にホームセンター事業をグループ内に抱え込むことで一気に成長戦略に打って出た形です。12月25日時点でDCMの島忠へのTOBは不成立、一方ニトリは12月28日を期限としたTOBを継続しており、島忠サイドの合意も得られているのでその成立は確実とみられています。
TOBを含むM&A(企業の合併・買収)は、「経営者が時間をカネで買う戦略」といわれて久しいですが、コロナ禍によってあらゆる業種で経営環境の激変が緊迫感をもって迫り来たことで、わが国においてもM&Aがいよいよ積極的な企業戦略として大きく台頭してきたといえます。ウイズコロナ時代におけるニューノーマル企業戦略の一つとして、21年はますます常識的なものとなることでしょう。TOBが敵対的であるか否かはもはや問題ではなく、企業戦略の点からその正当性が問われる流れになっていくと考えます。
「備えあれば憂いなし」は間違いない
以上、企業マネジメント観点から押さえておきたい20年における企業の動きを振り返ってみました。
足元では新型コロナ感染拡大の第3波が猛威をふるいはじめており、当面において企業マネジメントは、コロナとともに進んでいかざるを得ない流れにあるのではないかと今は思います。しかし、この1年で予想もしない展開をもたらしたのは、19年末には全く見えていなかった突然のコロナ禍襲来であり、一寸先は闇か光明か、それは神のみぞ知る領域でもあります。企業マネジメントは、備えあれば憂いなし。本稿がニューノーマル・マネジメントのヒントになれば幸いです。
著者プロフィール・大関暁夫(おおぜきあけお)
株式会社スタジオ02 代表取締役
横浜銀行に入り現場および現場指導の他、新聞記者経験もある異色の銀行マンとして活躍。全銀協出向時は旧大蔵省、自民党担当として小泉純一郎の郵政民営化策を支援した。その後営業、マーケティング畑ではアイデアマンとしてならし、金融危機の預金流出時に勝率連動利率の「ベイスターズ定期」を発案し、経営危機を救ったことも。06年支店長職をひと区切りとして銀行を円満退社。銀行時代実践した「稼ぐ営業チームづくり」を軸に、金融機関、上場企業、中小企業の現場指導をする傍ら、企業アナリストとしてメディアにも数多く登場。AllAbout「組織マネジメントガイド」役をはじめ、多くのメディアで執筆者やコメンテーターとして活躍中。
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